なぜガリウム・ゲルマニウム規制なのか 中国が日米に強く対抗できないワケ

Ng Han Guan / AP Photo

◆なぜガリウムやゲルマニウム規制なのか
 この規制が発表されてから日本の半導体関連企業への影響が懸念されているが、米中対立がさらに先鋭化すれば半導体分野での応酬もさらに激しくなることから、大きな動揺と不安が広がっている。ここで筆者は一つ感じることがある。なぜ、ガリウムやゲルマニウムの規制なのかという点だ。

 仮に中国がアメリカや日本に心の底から怒りや不満を感じ、大きな打撃を与えることのみを目的とするのならば、ガリウムやゲルマニウムではなくもっと効果のある規制が多くあるはずだ。それなのにこの決定を下した政治的本音はどこにあるのか。

 中国側にはいくつもの考えがあっただろうが、最も考えられるのは外資の中国離れだ。仮に今回、アメリカや日本の経済や貿易に極めて大きなダメージが及ぶ対抗措置を中国が発表すれば、おそらくチャイナリスクの増大などとして、中国で事業展開する外資企業の間では「やはり中国から離れるべき」「中国依存を低減するべき」と脱中国の動きが進みかねない。

 世界の工場として多くの外資が中国に参入し、中国経済にとって外資の存在感が大きいなか、外資撤退で経済が鈍り、国民の不満が共産党政権に向かうことは、習政権としては何としても避ける必要がある。中国では16歳から24歳の失業率が20%に達している。最近もビル・ゲイツやイーロン・マスクの訪中を中国政府が強く歓迎したように、習政権は外資の中国撤退に拍車がかかることへの警戒感がある。よって、中国としては過剰な対抗措置はなかなか取りにくいという事情があるのだろう。

Text by 本田英寿