激化する大国間対立、拡大する第3諸国陣営

インドネシアのジョコ大統領(8月16日)|Tatan Syuflana / AP Photo

 21世紀の初め、米国は世界の警察官を自称し、当時のブッシュ政権は自由や人権、民主主義など米国の伝統的価値観を世界に拡大させる政策を重視していた。しかし、いまの米国は世界の警察官からの引退を宣言し、イラクやアフガニスタンから米軍を撤退させ、ロシアによるウクライナ侵攻前から軍事的介入はしない姿勢を示していた。プーチン大統領がウクライナ侵攻を決断した政治的背景には、米軍の非介入姿勢があったとみる専門家も少なくない。

◆激化する陣営同士の対立
 そして、米中による戦略的競争は長期的に続くことは間違いなく、インド太平洋はその最前線となるだろう。中台関係は冷え込みの一途を辿っているが、米国は依然として「あいまい戦略(軍事介入するかどうか明確にしない)」を維持しており、軍事的懸念は拭いきれない。また、米国は中国やロシアに対抗するため同盟国や友好国との結束を強化している。6月のG7サミットでは、途上国向けのインフラ整備に、G7全体で2027年までに6000億ドルの投資を実施していく政策を打ち出し、日本、米国、オーストラリア、インドの4ヶ国で構成される協力枠組みクアッドは5月、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け、今後5年間で同地域のインフラ整備に500億ドル以上の支援や投資を目指す方針を発表した。これらの大規模な支援策は、途上国への大規模な経済援助を続ける中国による一帯一路構想に対抗する狙いがある。

 このような国際構造からは、米国の影響力の相対的低下だけでなく、米国主導の欧米陣営と中ロを軸とする非欧米陣営という、2つの大きな陣営同士の地固めが進んでいるように見える。当然ながらそれはマクロ的な見方で、欧米各国によって中国、ロシアへの認識に差があることも事実で、ミクロ的には2国間関係が毛細血管のように存在し、非常に複雑な構図ではある。しかし、欧米と対立する世界が国際政治、国際経済のなかで影響力を拡大していることは事実で、まさに新冷戦と言える環境が色濃くなってきている。

Text by 本田英寿