アルカイダは衰退するのか? 米、指導者ザワヒリ容疑者を殺害

アイマン・ザワヒリ(左)とオサマ・ビンラディン(1998年)|Mazhar Ali Khan / AP Photo

◆依然として拡がるアルカイダネットワーク
 そして、いまなお中東やアフリカ、南アジアなどでアルカイダ系組織が活動している。「インド亜大陸のアルカイダ(AQIS)」、イエメンの「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」、北アフリカで活動する「マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」、ソマリアの「アルシャバブ(Al Shabaab)」、マリを中心にサハラ地域を拠点とする「イスラムとムスリムの支援団(JNIM)」、シリアの「フッラース・アル・ディーン(Hurras al-Deen)」など、アルカイダを支持する武装勢力は各地で活動している。

 ザワヒリ容疑者の殺害によってアルカイダの世界的なネットワークが消え去ることもない。こういった組織はインターネット上ではアルカイダ本体と意思疎通したり、刺激を受けたりすることはあっても実際の活動は独自の方針で行っており、ザワヒリ容疑者の殺害による影響はほぼない。とくに、アフリカ・サハラ地域ではアルカイダ系によるテロ(イスラム国系も)が近年激しくなっており、治安が悪化傾向にある。また、アルカイダ系ではないが、いまなおシリアの難民キャンプで過酷な生活を余儀なくされるイスラム国戦闘員の子供たちが将来過激化するリスクが専門家の間で指摘されている。

◆残る潜在的リスク
 しかし、今日のアルカイダに再び9.11レベルのテロを実行できる力はない。アフガニスタンのアルカイダも、各地で活動するアルカイダ支部もテロ活動を継続しているものの、あくまでも地域レベルの活動に限定されており、国際レベルで大きな脅威になる可能性は限りなくゼロに近い。だが、それで安心できるわけではない。

 今日、国際社会は米中による戦略的競争、ロシアによるウクライナ侵攻など国家間対立の問題にほぼ全神経を集中させており、テロ問題への関心は以前より薄まっている。米国は自国の安全保障を考慮し、ザワヒリ殺害のようにドローンによるピンポイント攻撃を今後も続けるだろうが、中国、ロシアへの対処に時間を割かれてテロへの対応が疎かになれば、アルカイダが息を吹き返すリスクも排除できない。アルカイダは米国を攻撃する能力は失っても、その意思は捨てていない。安全保障は意思と能力で脅威を判断すべきだ。

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Text by 本田英寿