最高指導者殺害も、ISにほぼ打撃なし 世界各地で脅威続く

シリア・イドリブ県アトメで米軍が作戦を行った後の建物(2月3日)|Ghaith Alsayed / AP Photo

 バイデン大統領は2月3日、米軍特殊作戦部隊がシリア北西部イドリブ県で実施した対テロ掃討作戦の結果、イスラム過激組織「イスラム国(IS)」の最高指導者アブイブラヒム・ハシミ容疑者が死亡したと発表した。だが、これによるイスラム国への打撃は極めて少なく、その脅威は何もなかったかのように続いていくだろう。

◆ハシミ容疑者の居場所は前最高指導者の殺害現場の近く 
 米当局によると、ハシミ容疑者は米軍が自宅に接近したところ、家族を巻き添えにして自爆した。ハシミ容疑者はアパートの3階に住んでいたが、1階の住人は一般市民でハシミ容疑者と知って驚いたという。今回の掃討作戦は、2019年に当時のIS最高指導者だったアブバクル・バグダディ容疑者を殺害した作戦以来最大規模となったが、バグダディ容疑者が殺害された場所もイドリブ県で、ハシミ容疑者のアパートとかなり距離が近かったという。

◆イドリブ県はイスラム国と対立する勢力の支配地
 ここで気がかりとなるのは、バグダディ容疑者もハシミ容疑者も、イスラム国と対立するアルカイダ系の「タハリール・アル・シャーム機構(HTS)」や「フッラース・アル・ディーン(Hurras al-Deen)」が支配するイドリブ県で過ごしていたという事実だ。HTSはそこにハシミ容疑者がいたことを知らなかったとする声明をすでに出したようだが、イスラム国とアルカイダは組織の戦略上対立関係にあるとしても、双方ともサラフィー・ジハード主義を掲げる組織であることに変わりはなく、実際は戦闘員の加入や離反などが相互に起こり、メンバーの個人レベルでは密接な関係が生じていたとしても不思議ではない。

Text by 和田大樹