重く残るウクライナの環境汚染 戦後、ロシアに責任を問えるか?

ロシア軍の攻撃により立ち上る黒煙(オデーサ、7月16日)|Nina Lyashonok / AP Photo

◆避難民帰還後を懸念 汚染は国外にも広がる可能性
 土壌、水質汚染も懸念されている。電気が止まった地域の養鶏場では鶏が大量死し、その死骸や有機物が土壌を汚し、地下水が細菌汚染される危険性をもたらしている。飲料水も東部や南部を占領したロシア軍の標的の一つになっており、砲撃を受けた施設から有機物が漏出し周辺水域を汚染する可能性がある。水処理施設も破壊されており、現在でも安全な水を定期的に利用できない住民が数百万人に上っている。(サイエンティフィック・アメリカン)

 ロシアの破壊行為は水圏生態系に回復不能なダメージを与え、人間の健康にも影響を及ぼしているとスタブチュク氏は述べ、避難民が帰還すれば伝染病が蔓延する可能性もあり、ますます大きな問題になるとしている。(同)

 キエフ州生態検査局のアンドリー・ヴァギン氏は、汚染された水や空気は国境を越えて移動するため、大陸レベルの影響が懸念されるとしている。また、ロシアに占拠されている欧州最大の原子力発電所、ザポリージャ原発で事故が起これば、欧州全体、さらには人類にとっての脅威になり得るとオデーサ・ジャーナルは指摘している。

◆環境への罪問えるか? 証拠固めに動くウクライナ
 オデーサ・ジャーナルによると、キエフ州生態検査局は大気と土地の汚染の被害額を2000億フリヴニャ(約7400億円)と推定しているが、ロシアに賠償を求めることは可能なのだろうか。

 ジュネーブ条約を含む一連の国際法には戦時に軍事組織が遵守すべき義務が明文化されているが、そのなかには環境に長期的かつ深刻な損害を与えることを禁止するものもある。国際刑事裁判所(ICC)では状況によって戦争犯罪と見なされることもある。これまでもこれらの法律を適用して環境賠償を求めた例はある。1991年の湾岸戦争でクウェートの油田に火をつけ、意図的にペルシャ湾に大量の油を流出させたイラクに対し、国連は約30億ドル(約4110億円)の支払いを命じている。(ウェブ誌『Vox』)

 しかし、ウクライナは破壊が「広範囲、長期的、かつ深刻」であることを示さねばならず、環境破壊が国際法に違反することを証明するのは非常に難しいと豪マッコーリー大学のシュリーン・ダフト氏は述べる。さらにそれができても、ICCは国家ではなく個人を裁くため、ロシアを起訴するのは容易ではない。国連の国際司法裁判所を通す場合でもハードルは高いとしている。(同)

 一方、非営利団体「国際環境法センター」のキャロル・マフェットCEOは、国際社会が何らかの形でロシアの責任を追及することを確信している。とくに今回は侵略戦争であり、戦争自体が国際法上違法であることを考慮すれば、時間はかかってもロシアが責任を負うことになるだろうとしている。(同)

 オデーサ・ジャーナルによれば、ロシアの敵対行為が活発化して以来、400件以上の環境破壊の可能性、または実際の被害を地元NGOのエコディアが記録している。さらに環境破壊を専門的に評価するため、国家環境監視局のもと世界各国から集まった70人の科学者からなる運営本部も設立されており、戦後の賠償の行方が注目される。

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Text by 山川 真智子