アジア版NATOは現実的か?

ブリュッセルのNATO本部のNATO旗と加盟国旗|Olivier Matthys / AP Photo

◆アジア版NATOはできるのか
 では実際アジア版NATOはできるのか。まず根本的問題だが、NATO条約第5条には加盟国1国に対する攻撃は全加盟国に対する攻撃とみなすと集団防衛義務が明記されている。日本は相互防衛の範囲を拡大させる動きを見せているが、憲法上の制約もあり日本がNATOレベルの集団防衛義務を受け入れることは困難である。よって、アジアで既存のNATOが実現することはない。また、NATOに加盟する国々は基本的には自由や人権、法の支配などの価値観を重視する国々であり、そういった国々が地理的にも距離的にも集中しているエリアだ。それと比較してインド太平洋地域の国々の体制や価値観は多様であり、また、同地域は自由や人権、法の支配などの価値観を重視する国々が集中している地域とはいえない。

 以上のような現実を考えれば、複数国が相互防衛を受け入れる安全保障同盟が構築される可能性はゼロに近く、日米同盟やクアッド、米英豪によるオーカスなど既存の多国間枠組みを安全保障環境に照らし発展させていくのが現実路線だろう。今後、NATOとは違った安全保障体制、安全保障協力がこの地域では見られるかもしれない。

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Text by 和田大樹