EUに入りたい、ロシアとも親しくしたい…ロシアと天然ガス輸入契約のセルビア

ロシアのプーチン大統領(左)とセルビアのブチッチ大統領(2019年)|Darko Vojinovic / AP Photo

◆板挟みで苦労 理解者は少ない
 もっともセルビアが完全にロシアに取り込まれているわけでもない。ロシアのウクライナ侵攻を非難する国連決議には賛成し、ブチッチ大統領はマクロン仏大統領から賞賛されていた。ところがそのせいでロシアから叱責を受け、結局制裁参加を拒否したことで、ロシアの敵国リストから除外された欧州2ヶ国のうちの1つとなっている(フィナンシャル・タイムズ紙、以下FT)。

 ブチッチ大統領は、セルビアはロシアと西側諸国の間の外交の嵐に巻き込まれたと主張し、自国の立場はほとんど理解されていないと発言している。EUがロシアを孤立させようとするなか、ウクライナでの戦争はロシアから離れられない加盟候補国にとっての試練となっており、セルビアが両者を喜ばせることはますます困難になっているとFTは指摘している。
 
◆2期目でEU寄りに? 国民感情複雑
 新ガス契約発表後の5月31日、2期目の宣誓を行ったブチッチ大統領はEU加盟の道を進めることを誓い、新政府が対ロ制裁に加わる可能性もほのめかした。ロシアとのガス取引が対ロ制裁に加わらない理由と見られていただけに意外だが、ここ数週間セルビア国内で数多くの爆破予告が出されていることが関係しているかもしれない。対ロ制裁でEUと協調していないことが爆破予告の原因という見方もあり、ロシアから距離を置くことをブチッチ大統領が考え始めたようだとユーロニュースは述べている。

 しかしセルビアの有権者は、1990年に自国を爆撃し制裁を加えた西側を嫌い、コソボ問題でセルビアを支持するロシアに共感する人も多い。4月に発表されたイプソスの調査では、この20年間で初めてEU加盟反対の声が賛成を上回った。EUに加盟すればロシアに制裁を科し、EUがロシアに科す抑制措置も受け入れなければならなくなる。セルビアのブリン内相は、EUはセルビアがいかにロシアを憎むかによって欧州への愛を測っていると話しており、二者択一を迫られるセルビア人の複雑な感情を表している(ユーロニュース)。

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Text by 山川 真智子