ウクライナ熱望の高機動ロケット砲システム「HIMARS」、米が提供へ 射程80キロ

M142高機動ロケット砲システム(HIMARS)|Tony Overman / The Olympian via AP

◆新たな支援パッケージの一部として
 高度なロケットシステムの提供により、ウクライナ軍は今後、ウクライナ領内に展開するロシア部隊をより正確に狙えるようになる。さらに、政府筋が匿名でAP通信に明かしたところによると、新たな支援パッケージにはHIMARSのほか、ヘリコプター、対戦車ミサイル「ジャベリン」、戦術車両、各種予備パーツなどが含まれる模様だ。

 一方、ウクライナ側が要求していた長距離ミサイルシステムについてバイデン政権は、これを提供しない方針を固めた。今回提供が決定したHIMARSを使えば、射程約300キロの長距離ミサイル「ATACMS」を発射することも可能だ。ただしテレグラフ紙は、アメリカが長距離ミサイルを提供することはないだろうとみている。

◆ロシア国内への直接攻撃の懸念は
 アメリカはウクライナを兵器提供で支援しながらも、中長距離ロケットシステムの提供に慎重な姿勢を示してきた。ウクライナがロシアの領土に対して直接攻撃に出ることも可能となるためだ。バイデン氏はNYT紙への寄稿を通じ、「我々はウクライナが国境を越えて攻撃することを推奨しているわけでも、あるいは可能にしているわけでもない。ロシアに痛みを味わわせるだけのために、戦争を長引かせたいわけではない」との考えを示している。

 越境攻撃の懸念を深めるかのように、ある政府関係者はNYT紙に対し、射程80キロの中距離ミサイルでさえも国境付近からロシア国内を攻撃することは可能だと認めた。ただしこの高官は、ウクライナ側が国境を越えた攻撃に用いないと確約しており、その言葉を信頼しているとも述べている。

 テレグラフ紙は政府関係者の発言として、「ウクライナ側は我々に、これら兵器をロシア領内の目標に対して用いないことを確約した」「このような確約があったため、我々としては彼らがそうした行動に出ることはないと安心している」との見解を取り上げた。

 アメリカとしては応戦のための兵器提供を期待されながらも、戦争激化への加担は避けなければならないという、難しい立場が続く。

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Text by 青葉やまと