なぜ「戦術核」への懸念が高まっているのか ロシアがウクライナで使う可能性は

Mikhail Klimentyev, Sputnik, Kremlin Pool Photo via AP

◆小型だが「相当な死と破壊」もたらす
 戦術核兵器にはさまざまな威力のものがあり、生じる破壊力も多種多様だ。いずれにせよ戦略兵器よりは小規模となり、ロシア最大の戦略核が800キロトン規模と推定されるのに対し、戦術核は最小1キロトン以下から最大100キロトン程度となる。英BBCはTNT火薬換算値での比較として、広島の原爆が同換算で15キロトンであったのに対し、戦術核兵器は最小1キロトンからだと説明している。実際に使用された場合の影響については、「弾頭のサイズ、地上からどれほどの高さで爆発したか、および現地の環境」によって異なるという。

 米ワシントン・ポスト紙(3月29日)は、「こうした比較的小型の核兵器は、戦場での使用を想定しており、第二次世界大戦中にアメリカが日本の広島と長崎の上に落としたものをはるかに威力で下回る」と解説する。とはいえ「相当な死と破壊をもたらす能力をもつ」とも同紙は述べている。

◆使用の可能性は
 BBCは、ウクライナ侵攻直後にプーチン氏が核兵器を「戦闘態勢」に移行すると発言したことを受け、「これによりロシアが『戦術』核兵器を使用する恐れが高まった。全面的な核戦争とまではいかないが、いずれにせよ劇的な展開だ」と述べている。戦術核が投じられる可能性はあるとの見方だ。

 米ブラウン大学のニーナ・タネンウォルド上級講師(国際関係学)は、ユーロ・ニュース(3月26日)に対し、小型の戦術核兵器は「使い勝手の良いように感じられるため、危機に追いやられた指導者たちが手を伸ばしやすくなる」とリスクを指摘する。

 侵攻が予想以上に長期化していることで、プーチン氏が切り札に手を伸ばす心配も一段と高まった。ワシントン・ポスト紙は「ロシアは一分の隙もなく核武装している」と述べ、「一部のアナリストたちは(ロシアが)敗色を感じたことで、衝突を激化させるために(核兵器を)使用するのではないかと懸念している」と報じている。ロシアのドミトリー・ペスコフ大統領府報道官は28日、核兵器の使用は「誰も考えていない」と明言した。しかし同紙は、そもそもロシアはウクライナに侵攻しないと繰り返し述べており、発言の信頼性は低いと指摘している。

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Text by 青葉やまと