「私の怒りを表現」バイデン大統領、反プーチン発言撤回せず「プーチンの考えは気にしない」

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 2月24日に開始されたロシアによるウクライナ侵攻において、アメリカと北大西洋条約機構(NATO)のこれまで取ってきた姿勢は「ウクライナに武器や人道上の支援はしても、ロシアと直接的な戦闘はしない」というものだった。ジョー・バイデン大統領にとっても、ウクライナを助けたいという思いはあっただろうが、それはバイデン政権が再三発言したように、アメリカとロシアの直接対決から第三次世界大戦に発展することを避けるための決断である。

 しかし、バイデン大統領が3月25日にポーランドを訪問し、同国政府関係者やウクライナ難民、人道支援者らと接した後に同国ワルシャワで行ったスピーチでは、同大統領の感情的な姿勢の転換が見られた。バイデン大統領はスピーチの最後にアドリブで「この男(プーチン)を権力の座に置いておくことはできない」と追加したのである。

◆欧州各国は事態のエスカレート懸念
 バイデン氏の発言はもちろん、世界中で多くの人々が考えていることをはっきりと口にしたごく正直な意見である。しかし政治家は通常このような個人的意見を胸にしまっておき、口に出すことはあまりない。しかも、この発言をしたのが世界一の経済・軍事大国であるアメリカ大統領であれば、当然のようにその真意をめぐって大きなリアクションが起こることは避けられない。

 バイデン大統領の発言を受けて、ヨーロッパ各国では大きな波紋を呼んだ。NBCニュースによると、フランスのエマニュエル・マクロン大統領はバイデン大統領の発言に対し、テレビで「我々はこのような言葉遣いをすべきではない」「言葉でも行動でも、物事をエスカレートすべきでない」と対ロ姿勢に対して慎重な姿勢を見せた。マクロン大統領は個人的にもこれまでウクライナ問題でロシアのプーチン大統領と会談しており、そしてもちろんプーチン氏の意見や姿勢を変えることに失敗している。バイデン大統領自身も、ウクライナ侵攻前にプーチン大統領と何度も会談しているが、結局それは無駄な努力に終わった。数々の外交努力を無視してプーチン氏がウクライナ軍事侵攻に踏み切ったことで、バイデン大統領はプーチン氏に外交上良い顔をするのは無意味だと感じたようだ。

Text by 川島 実佳