元コメディアンとテック起業家が本領発揮、ウクライナのデジタル・メディア戦略とは
◆ウクライナのデジタル・メディア戦略
ゼレンスキーは、決して望ましくはない戦争をきっかけに、再び、にわかに国内外の注目と支持を集めることとなった。ロシアがウクライナに侵攻開始した2月24日未明、ゼレンスキーは自撮りの短い動画にて、国民と世界にメッセージを発信した。プーチン大統領に対して戦争回避を働きかけたが黙殺されたとした上で、ウクライナ人が攻撃された際には自衛するとし、強い姿勢を示した。また、侵攻開始後も新たな動画メッセージを発信。軍服姿で世界に対しての支援を呼びかけた(BBC)。彼はチャーチル首相の演説を引用したり、米国議会での演説では真珠湾攻撃やキング牧師の演説を引き合いに出すなどし、欧米世界に対してのアピールを続けている。また、自国民・世界の人々に対してもフェイスブックやツイッター上などで、ウクライナ語と英語の両方で発信を続けている。現在、公式アカウントのフェイスブックフォロワー数は約260万。ツイッターは約550万、インスタグラムは160万である。
さらにゼレンスキー政権のデジタル・メディア戦略の要となる人物の一人が、最も若い閣僚メンバーであるミハイロ・フェドロフ(Mykhailo Fedorov)副首相兼デジタル転換相だ。フェドロフは、ゼレンスキーの大統領選挙キャンペーンのデジタル戦略を率いた人物で、彼の当選後の2019年、当時28歳の若さで入閣した。以来、元テック起業家のフェドロフはウクライナ政府のデジタル化を率いてきた。ロシアとウクライナとの戦争開始後は、アップル、グーグルなどのビッグテック企業、ペイパルやSAPなどの事業取引関連の主要プラットフォーム企業などに積極的に働きかけ、制裁による反ロシアとウクライナ支援を訴え続けている。自国民に対してのインターネット・サービスを継続させるために、自国のテレコム企業を支援するだけでなく、イーロン・マスクに対しても直接支援を訴え、マスクのスペースX社の衛星インターネット・サービスであるスターリンクの導入を実現させた。一方、仮想通貨を活用し、ウクライナ軍のための6000万ドルの資金調達も成功させた。フェドロフもまた、各アクションを逐一、ツイッターなどで発信している。
政権が「デジタル封鎖(digital blockade)」と呼ぶ、対ロシアの企業制裁措置。ロシア政府だけでなく、ロシア国民にとっても打撃となるが、世界を味方につける有効な戦略の一つであることは間違いなさそうだ。プーチンの攻撃に対して、ゼレンスキー政権は、その積極的なメディア・デジタル戦略の活用によって、自国を守ることができるだろうか。いまだ世界が見守っている状況だ。
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