北京五輪、ウイグル過激派は再び姿を現すのか

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◆ウイグル過激派は再び姿を見せるのか
 もう一つがウイグル過激派をめぐる動向だ。今年に入ってウイグル人権問題に世界の注目が集まっているが、中国政府は長年ウイグル過激派の動向に神経を尖らせてきた。来年北京で開催されるのは冬季五輪だが、2008年には夏季五輪が開催された。そのとき、ウイグル過激派であるトルキスタン・イスラム党(TIP) を名乗る組織は、北京五輪開催中のテロを示唆する内容の動画を公開した。TIPによる6分間の動画では、五輪のロゴが燃やされ、五輪会場が爆破される様子が映し出された。またTIPのメンバーは、列車やバスなどの公共交通機関を含め中国市民が集まるすべての場所を避けるようイスラム教徒らに警告した。同組織は、五輪直前に雲南省昆明市で起きた連続バス爆破事件においても動画で犯行声明を出している。

 中国当局は、TIPや東トルキスタン・イスラム運動(ETIM、TIPと同組織とされる)を名乗る過激派のメンバーはいまでもアフガニスタンやパキスタンに拠点を置き、国際テロ組織アルカイダやタリバンと関係を維持していると警戒している。国連安保理のテロ監視チームは、ETIMのメンバーがアフガニスタンに500人、シリアに1500〜3000人いると報告している。

 そして、米軍のアフガニスタンからの撤退によって、同国の治安悪化がいっそう進み、ウイグル過激派やアルカイダなどのテロ組織が勢力を盛り返すことを中国は警戒している。来年の五輪の際、ウイグル独立派が北京でテロを実行する可能性は現実的に考えても低いが、ウイグル人権問題が国際的な注目を集め、米軍がアフガニスタンから撤退する現在のタイミングは、ウイグル過激派がネット上で姿を見せる上では都合がよい状況と言える。パキスタンで中国権益を狙ったテロが続いているが、ウイグル過激派が海外にある中国権益を狙うことは決して難しくない。北京五輪でウイグル過激派は再び姿を見せるのか、ここに筆者は注目している。

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Text by 和田大樹