解説:北京冬季オリンピックのボイコット論が広がる理由

Ashwini Bhatia / AP Photo

 来年に迫った北京冬季オリンピックが、何らかのボイコットの影響を受けることはまず間違いない。

 現在、新疆ウイグル自治区でのイスラム系ウイグル人の強制収容をはじめ、中国当局による少数民族への人権抑圧が広く報じられている。これをジェノサイド(大量虐殺)だとする人権団体グループも多く、2022年北京冬季五輪をボイコットすべきだという声が上がっている。

 ウイグル人、チベット人、香港、および中国の民主主義運動家の代表からなる広範な連合は、選手派遣の中止といった断固たるボイコットからいわゆる外交ボイコットまで、あらゆる対応を求めている。

 活動家グループらは国際オリンピック委員会に対して開催地の変更を要求していたが受け入れられず、現在は国内のオリンピック委員会やアスリート、スポンサーにかけ合っているという。北京では過去に夏季五輪が開催されており、来年冬季五輪が実施されれば、世界初の「夏冬両オリンピックの開催都市」となる。

 2008年の北京オリンピック時には、これを機に中国の人権が向上することが期待されていた。

◆IOCと中国の対応
 トーマス・バッハ会長は「IOCは政治から切り離されたものであるべき」と話しているが、IOCは国連のオブザーバーという立場を保持しており、バッハ氏自身も朝鮮半島の統一に向けて尽力していると公言している。

 同氏は今月、3日間のIOC会議終了後の記者会見で「IOCは、国連安全保障理事会やG7、G20ですら解決策を見いだせない問題に対処できるほど、超世界的な政府ではない」と語っている。

 中国政府はボイコット運動の根底に「政治的動機」があると主張しており、ウイグル人や少数民族用の強制収容施設を「職業訓練センター」と表現している。

 中国外務省の趙立堅報道官は、「中国はスポーツの政治化を断固拒否し、人権問題を利用して他国の内政に干渉することに反対する。ボイコット運動は失敗する運命にある」と述べている。

◆活動家グループがIOCと接触
 活動家グループは2020年末にIOCに接触し、2022年冬季オリンピックの開催地変更を要請した。さらに彼らは、IOCが保有しているという、中国が人権状況を「保証」した文書の開示を求めた。活動家らは「IOCは文書を作成していない」と言う。

 国際チベットネットワークでキャンペーンコーディネーターを務めるグロリア・モンゴメリー氏は、「IOCと話し合いをしましたが、あくまで『話し合った』という既成事実を作るためであり、我々の意見をもとに何らかの行動を起こす気はないのだと感じました」と語っている。

 同氏は2008年夏季五輪のメインスタジアムで、9万1000人を収容可能な北京国家体育場を例に、強制収容所の規模を説明した。仮に200万人が収容されているなら、それは国家体育場22個分に相当するという。

 モンゴメリー氏は、「どれだけの人が収容所送りになったらIOCは方針を変えるのでしょうか?」と疑問を呈する。

 アメリカの香港人コミュニティ「We The Hongkongers 」のディレクター、フランセス・ホイ氏はミーティング上でIOCが見せた、こちらを見下すようなトーンについて言及した。

 同氏は、「私たちが最初に聞いたのは、『非常に複雑な世界です』という言葉でした。そして私はいま一度尋ねたのです。ジェノサイドと人殺しを実践する国で行われる大会をどのように合法化するのですか、と。しかし、彼らは『複雑な世界です』という答えを繰り返したのです。中国が人権を軽んじ、大量虐殺を行っているという事実は理解しがたいですか? そんなことはありません。きちんと我々の話を聞いてもらえれば、複雑ということはないはずです」と語る。

◆ボイコット、外交ボイコット
 活動家グループが話しているのは、よりソフトな形のボイコットだ。だからといって、1980年のモスクワオリンピックのようなボイコットを選択肢から排除しているわけではない。当時、旧ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議したアメリカがボイコットを呼びかけた結果、中国を含む65ヶ国がモスクワ五輪を辞退し、参加国は80ヶ国だった。

 世界ウイグル会議の広報担当者であるツムレタイ・アーキン氏は、「外交ボイコットは、我々のコミュニティすべてに大いに歓迎されると思います。我々は説明責任に目を向けており、外交ボイコットは間違いなく説明責任へと続く一歩です。もちろん、アスリートにとっては不公平です。しかし、彼らには良心や自身の考えもあるのです」と語る。

◆ボイコットがもたらすもの
 1976年大会でフェンシングの金メダルを獲得したバッハ氏もまた、1980年に西ドイツチームのメンバーとしてモスクワに行く機会を奪われた1人だ。ボイコットはIOCの財政やそのイメージを傷つける恐れもあり、同氏はボイコットには反対だ。

 亡命した中国人権弁護士兼活動家のテン・ビアオ氏は、「我々がボイコットを呼びかける前に、IOCが中国でのオリンピック開催を取りやめてくれることを望んでいました。しかし、彼らはそうしたくなかったのです。中国政府もオリンピックのことは非常に気にかけています。そのチャンスを、我々はあきらめるべきではありません」と述べている。

 同氏はオリンピックが開催されても、アスリートをはじめとする参加者からの抗議を歓迎するという。その方法は、SNSの投稿やメッセージ性のあるTシャツの着用、開会式欠席などといったものだ。

 テン氏は、「ただ、中国政府は残忍さを増しているので、中国に暮らすチベット人やウイグル人、中国人の方には抗議活動を勧めません。オリンピック中に抗議するリスクを冒してほしくありません」と話す。

 一部の活動家は、「中国の国家安全保障法は適用範囲が広く、国外のアスリートや参加者であっても中国で逮捕される恐れがある」と警告する。

「スチューデンツ・フォー・フリー・チベット」のドルジェ・ツェテン事務局長は、「ボイコットを呼びかけるなら、それは大量虐殺の事実を認める民主主義国が主導する、協調的なものでなければなりません。いま立ち上がらなければ、中国に説明責任を負わせることは不可能でしょう」と述べている。

By STEPHEN WADE AP Sports Writer
Translated by isshi via Conyac

Text by AP