米軍の対テロ戦からの縮小・撤退がもたらすリスク

イラクで任務に就く米兵(3月27日)|Ali Abdul Hassan / AP Photo

 あと1ヶ月ほどでホワイトハウスを去るトランプ大統領は最近になり、イスラエルとアラブ諸国との国交正常化、また、アフガニスタンやイラク、ソマリアに駐留する米軍の縮小・撤退などで大きな動きを見せている。最後にできることは何でもやって自分が目立ち、バイデン新政権を初めから混乱させようとしているのか、公約にしていたとはいえ、トランプ大統領の意思や目的は不明だ。

 とくに、トランプ大統領は「果てしない戦争は終わらせる」として、アフガン駐留米軍を4500人から2500人、イラク駐留米軍を3000人から2500人に縮小し、ソマリア駐留米軍700人の大半を現地から撤退させる方針だ。世界のパワーバランスは大きく変化し、米国は中国やロシアとの覇権争いを最も重視する戦略に転換している。対中と対テロを同時並行で進められる政治的余裕やマンパワーがないのは明らかであり、トランプ大統領の決断には正当性があるともいえる。しかし、中長期的には大きなリスクがある。

◆ブランド、イデオロギーとしてのアルカイダ、イスラム国
 アフガニスタンではアルカイダのメンバーが数百人レベルで活動し、シリア・イラクではイスラム国(IS)が小規模ながらもテロを続けているとされるが、そのピークと比べると現在は見る影もない。だが、イエメンのアラビア半島のアルカイダ(AQAP)、北アフリカで活動するマグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)、ソマリアのアルシャバブ(Al Shabaab)、マリを中心にサハラ地域を拠点とするイスラムとムスリムの支援団(JNIM)、シリアのフッラース・アル・ディーン(Hurras al-Deen)など、アルカイダを支持する武装勢力は依然として現地で活動し、「ISのシナイ州」や「ISの中央アフリカ州」「ISの東アジア州」などISを支持する組織も各地に点在している。

 これら地域支部の活動は地域的なものに限られ、地域支部が9.11のようなテロを実行できる能力はなく、おそらく現在はそういった具体的計画も練っていないだろう。だが、能力はないとしても、「欧米諸国を攻撃する」という意思は依然として捨てていない。

Text by 和田大樹