台湾総統選:過去最多800万票の意味、中台関係の行方

Chiang Ying-ying / AP Photo

◆蔡英文氏の再選が香港に与えるもの
 また、蔡英文氏の再選は香港市民の一部に大きな勇気を与えることになっただろう。すでに抗議デモが日常生活になり、疲弊してしまった人々は自分たちには関係ないと思うかもしれないが、台湾から勇気をもらった、台湾とともに頑張ろうと一体感、連帯意識を高めた人々もいるはずだ。そういう意味で、台湾と香港の現状は相互作用している。

◆中台間の摩擦はいっそう激しくなるか
 今後すぐに何か深刻な事態が生じるわけではないが、中台間の摩擦は今後さらに激しくなる恐れもある。

 たとえば、中国は台湾への外交封じ込め政策をいっそう強めるだろう。南太平洋地域は中台による国交獲得競争の最前線となっているが、去年、キリバスとソロモン諸島が台湾との外交関係を断絶し、中国と新たに国交を樹立したように、中国は残る国々(ツバル、ナウル、パラオ、マーシャル諸島)への経済的な梃入れを強化し、脱台湾化を推し進めるだろう。同4ヶ国は経済的、人口的にもきわめて小さく、その可能性は十分にある。また、中国は、脱台湾に舵を切ったキリバスとソロモン諸島を手厚く保護している。最終的に、中国は台湾と国交を持つ国をゼロにし、台湾に外交をできなくさせ、「国交が一つもないので台湾は国ではない」を既成事実化しようとしている。

 また、台湾海峡の安全保障環境もいっそう緊張が走る可能性がある。近年、中国初の国産空母「山東」が台湾海峡を通過するなど、中国は台湾をけん制する動きを顕著に見せている。米軍も対抗するかのように空母を同海峡に派遣する可能性について言及するなど、台湾海峡における緊張がこれまでになく高まる恐れがある。

 台湾周辺の安全保障は、日本のシーレーンや南西諸島防衛にも直結する問題である。日本としても、十分に注視していく必要がある。日米同盟を基軸とする「日米台安全保障同盟」などのような大胆な方法は現状では難しいだろうが、情報収集や日台戦略対話などで、これまで以上に連携を強化していくべきだろう。

Text by 和田大樹