米イラン対立の最前線と化すイラク 蓄積する市民の怒り・不満

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◆蓄積するイラク市民の怒り・不満
 こういった事情を抱えるイラクだが、我々はイラクの置かれている現状にもっと目を向けないといけない。首都バグダッドなど各地では10日、数千人規模の大規模な反政府デモが行われたという。今年に入って最初の大規模デモで、参加者たちは、昨年辞任を発表したアブドルマハディ暫定首相に代わる新しい首相の選出、米イラン対立による国内の混乱解決などを政府に対して訴えた。スレイマニ司令官の殺害以降、イラクでは反米感情が高まっているというが、社会経済改革を求める市民たちは昨年以降、反イラン感情も強く抱いており、「イラクを政治利用するな」「米国もイランも外国勢力は出ていけ」という不満を強く持っている。

 南部の都市バスラでも1月10日、米国やイランに抗議する学生数百人規模の抗議デモが発生した。イラク南部の多くはシーア派教徒で親イランの声が多いと言われているが、実際は、雇用の安定や賃金アップ、政府の汚職改善などを純粋に求める市民の声が強い。シーア派教徒といっても、「イラク人」というナショナルアイデンティティが当然ながら根底にある。

 各地で発生したデモでは、「No to America and no to Iran, Sunnis and Shias are brothers」という叫びが聞かれた。すなわち、「米国もイランも要らない、スンニ派もシーア派も同じイラク人だ」というナショナルアイデンティティである。米イラン対立というものは、イラク人のアイデンティティに対しても攻撃を加えているのかもしれない。

Text by 和田大樹