ベネズエラ難民問題、未曾有の事態に 暴力、衛生問題……対応に苦慮する周辺国

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◆南米史上最悪の難民危機
 国連の関連機関、国際移住機関(IOM)によれば、2015年から2017年にかけて、国外に居住するベネズエラ人は2倍以上(70万人→160万人)に増加した。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は、今年8月に入ってからも毎日数百人のベネズエラ難民がブラジル・ロライマ州に入ってきていると報告。難民は西の隣国コロンビアやエクアドルにも流入している。ペルーには、約40万人のベネズエラ人が居住しているが、このうち滞在許可を得ているのは17万8000人だけだという。2014年以降のベネズエラからの難民流出はおよそ230万人と言われ、南米史上最悪の難民危機となっている。

 難民の発生を招いている要因は、2014年の石油価格暴落に始まったベネズエラ国内の深刻な経済危機だ。かつては有力な産油国として豊かさを保っていた同国だが、現在は5人中4人のベネズエラ人が貧困に喘いでいるとされる。石油輸出不振による深刻な外貨不足と同国左派政権の反米政策に対する米国の経済制裁の影響もあり、特に輸入に頼っていた食料品、医薬品が不足。人々は腐った肉を買うのにすら何時間も並び、医薬品の不足により命を落とす者も多いという。安全に出産できないためにブラジルなどに妊婦が殺到しているという報道もある。

 事態を悪化させた最大の要因は、ベネズエラの左派政権の政権運営の失敗や汚職の蔓延にあるというのが、国際社会の一致した見方だ。ベネズエラでは、チャベス前大統領時代の1990年代末から「21世紀型社会主義の実現」を掲げる反米左派政権が続く。チャベス氏の後継者のマドゥロ現大統領も“帝国主義”の欧米がベネズエラに経済戦争を仕掛けてきた結果、石油価格が暴落したと、経済危機の責任を欧米になすりつけている。

◆左派政権は難民危機は「捏造」と主張
 ベネズエラ経済は、原油生産量の落ち込みから外貨不足に陥り、物価が上昇するというハイパーインフレのスパイラルに陥っている。国際通貨基金(IMF)によれば、ベネズエラのインフレ率は年内になんと100万%に達する見込みだという。マドゥロ政権は有効な対策を講じるどころか、放漫財政によって事態を悪化させていると国際社会は非難する。マドゥロ大統領は、今月、インフレ対策として突如新通貨の発行を宣言したが、BBCは「これによってさらに混乱が広がった」と報じている。

 国内外から批判を受け続けても、マドゥロ政権は自らの責任を認めようとしていない。与党No.2のディオスダド・カベリョ氏は、難民危機は欧米メディアのでっち上げだと地元メディアに語った。「人々がペルーの道端を、エクアドルの道端を、コロンビアの道端を歩いている写真を見れば、疑念を抱くのも仕方がない。『照明、カメラ用意! はい、アクション!』という感じだ。これは我が国に対するキャンペーンだ」と、報道される難民の列はアメリカなどによる捏造だと訴えた(BBC)。

 政権トップがこのような発言をするありさまだから、ベネズエラ国内の自浄作用には期待できないだろう。ベネズエラ難民問題を話し合うエクアドル、コロンビア、ペルー、ブラジルによる外相会談が来週開かれる見込みだが、そこに当事国ベネズエラの外相の名はない。ペルーのポポリジオ外相も、難民問題について国連に援助を求めたことを地元ラジオ番組で明かしている。劇的な政権交代でも起きない限り、ベネズエラ国民の運命は、国際社会の手にかかっていると言えそうだ。

Text by 内村 浩介