古美術品の違法取引:数千年もの長きにわたって続いた惨状

Shutterstock.com / Giannis Papanikos

著:Evangelos Kyriakidisケント大学、Senior Lecturer in Aegean Prehistory)

 いつの時代も、芸術品の略奪は軍事力と経済力の象徴だった。数千年もの間、土地を征服した将軍たちは略奪品を携えて母国に凱旋したものだ。ここ数世紀でみると、裕福な上流階級の人たちが由緒ある場所を大々的に巡り、入手手段は何であれ花瓶から彫像、寺院の装飾物などを持ち帰っては自宅に飾っていた。古美術品を持っていることは、裕福な富、古代文化への愛情、そして究極的には、他の誰もが持っていないモノを所有しているという、その人ならではの特質の表れだった。

 少なくとも、略奪者たちの思考はそのようなものである。今では、こうした怪しげな収集方法に相応しい呼び名は広く知られている。そう、歴史的にも共感を集めている言葉、「破壊行為」である。

                                                                                                                 

 あまりにも大量の古美術品が盗まれては、大英博物館、ルーブル美術館、メトロポリタン美術館、イスタンブール考古学博物館といった世界の主要国の首都にある巨大博物館に展示されている。こうした施設は、外国の国宝級の展示物を保有し続け、自分たちは各地の遺産を一堂に集めて一般の人に解放している世界の博物館なのだと主張している。

 そして、破壊行為の最たる例と言われるエルギン・マーブルはロンドンの大英博物館に展示されている。これはギリシャがオスマン帝国から独立する30年ほど前の1801年、エルギン伯爵トマス・ブルースが怪しげな方法で「獲得」したものだ。

 英野党労働党のジェレミー・コービン党首は最近、同党が政権を取ればエルギン・マーブルをギリシャに返還するとコメントした。6月3日の党首声明

占領地や植民地で窃盗もしくは略奪したものに関しては、たとえそれが過去に別の国から略奪されたものであったとしても、彫刻品の返還についてギリシャ政府と建設的な議論を開始していくべきである

 エルギン・マーブルに対する英国政府のこれまでの姿勢をみると、展示コレクションが何であれ芸術品の返還を判断するのは博物館の管理人次第、というものだった。しかし、同博物館に資金の多くを拠出しているのは政府であるため、博物館の管理人に対し政府は強い影響力を行使し得る立場にある。

 そのため、マーブルは依然としてロンドンから動かない。そして古美術品の取引はますます活発になっている。その国にある遺産がただ奪われているだけでなく、さらに悪いことに、適切かつ系統立った発掘がされていれば得られたであろう情報が世界から奪われ、芸術品が古びた博物館に展示される作品に成り下がってしまっている。もはや人類の歴史の豊かな象徴でも、歴史の先生でもなくなっているのだ。

 さらに、シリアやイラクで略奪された盗難古美術品の売却資金が一部のテロリスト集団やイスラム国(IS)の活動に使われていたという証拠がある。そのため、一つの違法行為が多くの行為に関係することになる。

◆取引との闘い
 歴史の叡智、地元の誇り、そして国際的な主権を害するこうした取引を、私たちはどのようにして止めさせられるだろうか。ほぼ全ての古美術品の取引は、もともとの所有国の法律に違反していることもあり、ある意味で非合法ではあるが、こうした違法取引は、一般的な犯罪の一つと考えられている。多くの国では、この種の犯罪に特化した専門部局を警察組織内に設けている。例えば英国のロンドン警視庁には芸術・古美術部門があるほか、米国のFBIには16人から成る芸術犯罪担当がいる。

 英国では、1997年の芸術・古美術部門による「ブルラッシュ作戦(Operation Bullrush)」で、エジプトから高価な古美術品を盗んだとして古物商のジョナサン・トケリー・パリーが起訴された(彼はエジプトでも欠席裁判で有罪判決を受けている)。また、米国の連邦裁判所は2002年、National Association of Dealers in Ancient, Oriental and Primitive Art(全米東洋・原始芸術古物商協会)の元会長であったフレデリック・シュルツに有罪判決を下した。エジプトで盗まれた古美術品の受け取りに際し、1934年の連邦窃盗財産法(NSPA)に共謀して違反した容疑だ。

 また、古美術品の輸入の統制や密輸の防止に向けた取り組みを行う目的で、複数の国々が了解覚書(MOU)に調印している。米国は2017年、エジプトとの間でMOUを締結した。こうした取り決めは、1970年のユネスコ・パリ条約を根拠としている。この条約は、各加盟国による条約調印前に出回っていなかった古美術品の販売や購入を禁止するものだ。

 ただ、こうした手段やステークホルダーが重視しているのは、コレクターや博物館など、違法な古美術品が最終的に置かれている場所である。しかし、それでは不十分だ。対策にあたっては、その古美術品でなされた違法取引の全ての段階を考慮に入れる必要がある。それは採掘から始まり、第一および第二の仲介者(古物商たち)、国をまたぐ取引径路から最後の購入者であるコレクターまでの段階である。

◆協力作業
 ケント大学が関与している「Heritage Management Organisation(遺産管理組織、HERITΛGE)」プロジェクトでは、違法な古美術品取引に対し包括的な戦略の構築を目指して取り組んでいる。科学者、地元コミュニティ、警察、コレクター、規制当局、一般大衆といった様々なステークホルダーの知恵と努力を組み合わせることを目標としている。

 違法な採掘を防ぐため、警察は衛星による監視、パターン認識、科学捜査といった最新の技術進歩を採用しなくてはならない。しかし考古学的に重要な地域に関しては、遺産保護のステークホルダーとして積極的に関与してもらわなければならない地元コミュニティの手助けが必要になる。

 全てのコレクターを敵視すべきではない。この人たちは違法な古美術品の取引を撲滅する闘いに関与し、訓練を必要とする強力なステークホルダーになる可能性がある。多くのコレクターは品物の購入方法に注意を払っている。しかし、責任ある購入について無知なコレクターもいる。コレクターは、独自のネットワーク、古物商のほか、自身のコレクションについて品物の法的地位についての厳密な認証(または不認証)の状況に関する知見や価値ある情報を持っている。HERITΛGEはギリシャ文化省と協力して、コレクター、同省、ギリシャ警察が一堂に会する初めての会合を開催した。この分野でなすべき仕事はたくさんある。

 古美術品の取引を統制する国際条約があるのは結構な話だが、まずは関係する全てのステークホルダーの間で理解が得られなければならない。HERITΛGEはEU法と国際法の両方について、返還に関する数少ない逐条解説書の一つを公表した。

 ボランティアに対しては、売買の対象になっている品物の来歴を見極める方法、隠された作品や盗まれた作品を「発見する」既存データベースの使用法を訓練していくことが欠かせない。こうした取り組みをしているのは学識者のChristos Tsirogiannis(クリストス・トシロギアニンス)氏で、略奪された古美術品を追跡し、元の国に返還させる取り組みで成功を収めている。

 しかし、この戦略が実を結ぶためには、全ての関係するステークホルダーが偏見を持つことなく協力していくことが必要である。そうすることにより、何千年もの間、多くの国の宝が失われてきた時代を終わらせることができるかもしれない。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Conyac

The Conversation

Text by The Conversation

Recommends