米、中国人研究者の締め出しを検討 機密漏えい警戒 内外から批判も

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 アメリカで行われている機密性が高い研究に、中国国民が関与できないようにする厳しい規制をトランプ政権が検討中だという。過去には中国人研究者による技術漏えい疑惑事件なども起きており、歯止めをかける必要性も指摘されている。一方学術界、産業界、さらには中国からも、国籍で研究者を差別するのは、アメリカならではの自由で革新的な研究環境を阻害するものだと批判の声が出ている。

◆より厳しい条件を 中国人研究者、トランプ政権のターゲットに
 このニュースは、消息筋の情報として、ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)が伝えたものだ。現在アメリカでは、軍事技術に応用される可能性のあるものを含めた、いわゆる安全保障貿易管理の対象となるプロジェクトに外国人が参加するためには、政府から特別な許可を得る必要がある。

 しかしトランプ政権は、中国人研究者への特定のビザ発給の制限や、企業や大学での軍事・諜報分野のプロジェクトへの中国人研究者の参加に関する規制を、さらに広げることを議論しているという。これが現実すれば、米企業や大学は、これまで必要なかった分野でも、中国人研究者のために特別許可を取る必要が出てくる。また、科学的研究や商品開発プログラムに中国国籍を持つ者(永住権保持者、亡命者は除外)が参加することは、今より難しくなるとNYTは説明している。

◆アメリカの技術が中国で実用化? 学術機関でのスパイが深刻
 中国人締め出し議論に燃料を投下している例として、NYTはある中国人研究者の先端技術持ち出し疑惑を上げている。Ruopeng Liu氏は、デューク大学で物体の透明化技術開発を手伝う優秀な学生だった。担当のデビッド・R・スミス教授によれば、Liu氏は中国の元同僚との協力に熱心で、研究室に彼らを招き写真まで取らせており、Liu氏がアメリカで学んだ最先端技術を、中国の同僚とシェアしていたことは明白だった。

 当時スミス教授の研究のほとんどは初期の段階にあり、機密、または安全保障貿易管理の対象にはなっていなかった。FBIはLiu氏を捜査対象としたが、告発することはなかった。中国に戻ったLiu氏は、研究所を立ち上げて多額の投資を受け、習近平主席のホスト役を務めるほどの成功者となった。今年4月に、中国は戦闘機を突然レーダー上から消すことができる「透明マント」のテストを行ったと発表しており、デューク大学の技術が、Liu氏を通して中国に伝わったのではないかと関係者は疑っているという。

 米政府で対諜報活動に従事していたマイケル・ヴァン・クリーブ氏は、自由で開放的なことが、アメリカを「スパイの楽園」にしてしまったと議会で発言している。国防省の統計では、2014年の外国による米機密情報取得の試みの4分の1が、学術研究機関を通じたものだったということだ(NYT)。

◆締め出しは中国を利するだけ? 大学、企業から不安の声
 中国は現在、マイクロチップ、人工知能、電気自動車などの先端技術でトップを目指す、「中国製造2025」計画を打ち出しており、アメリカを脅かす勢いだ。中国人研究者に対する規制は、中国という安全保障上の脅威と戦うために必要な手段の一つと、米政権は見ているという(NYT)。

 しかし、中国人研究者を厳しく規制すれば、世界中から才能ある研究者が集まるアメリカの研究施設のイノベーションを阻害することにつながり、学術界にとっては損失だとNYTは指摘する。さらに、アメリカで学ぶ外国人学生は毎年100万人以上だが、その3分の1は中国出身だとし、高い学費をほとんど自費で払う彼らは、大学の貴重な収入源だとも説明している。

 産業界も不安を隠せない。ワシントン・ポスト紙によれば、米情報技術工業協議会のディーン・ガーフィールド氏は、企業は新製品を開発するため、スキルの高い外国人労働力に頼っているとし、才能ある中国人研究者がいなくなれば、アメリカ経済が不利益を被るとしている。NYTは、中国人研究者を締め出せば、米中関係は悪化し、今後中国市場での成長に賭ける米企業のためにならないとしている。

 今回の報道に対し、中国のグローバル・タイムズは、アメリカは「保守主義に向かい、心が狭くなっている」と批判し、特定の国籍を持つ者をターゲットにすることは、平等と寛容さという基本的なアメリカの原則に反すると断じる。対照的に、中国はより開放的で、大学院を卒業した外国人学生を1年以内に雇用する制度もできたとし、アメリカは中国から学び、冷戦メンタリティを捨てるべきだとしている。

Text by 山川 真智子