五輪後、米朝対話の可能性は? 「すでに秘密会談あった」との見方も

Natacha Pisarenko / AP Photo

 南北統一チームの結成など、韓国と北朝鮮の融和ムードが演出された平昌冬季オリンピックが25日、閉幕した。韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領が、五輪に勢いを得て対話路線を押し進めたいと意気込んでいる一方、アメリカのトランプ大統領は追加制裁の実施を示唆するなど、米韓の温度差が浮き彫りになっている。

 そうした中、米主要メディアは「五輪後」の朝鮮半島情勢をそれぞれ分析。その中には、トランプ大統領は実際には硬軟を使い分ける意思があるという見方や、閉会式の場で既に米朝の秘密会談が行われた可能性があるという報道もある。一方で、韓国の国民感情は文在寅大統領の対話路線に懐疑的だという世論調査結果や、北がすぐにも次の核・ミサイル実験を行うという予想もある。朝鮮半島情勢はいまだ混沌とした状況にあると言えそうだ。

                                                                                                                 

◆「対話」を強調する文大統領
 平昌オリンピックの閉会式には、文大統領とともに、アメリカからトランプ大統領の娘で大統領アドバイザーのイヴァンカ・トランプさん、北朝鮮からはキム・ヨンチョル党中央委員会副委員長がそれぞれの国を代表してスタジアムのVIP席に陣取った。キム・ヨンチョル氏は、対南戦略を担当する統一戦線部の部長の座にあり、2010年の韓国の軍艦への魚雷攻撃事件(46人の韓国兵が死亡)を指揮したとして、国際社会の非難を浴びると共に、米国の制裁の対象になっている人物だ。

 閉会式でのイヴァンカさんとキム氏の様子を、CNNは「たった数フィートしか離れていない席に座っていたが、南北合同チームがスタジアムに入場した際にともに拍手を送りながらも、一度も目を合わせることはなかった」と報じている。また、キム氏と2つしか離れていない席には、正装の軍服姿のヴィンセント・ブルックス在韓米軍司令官の姿があったが、やはりお互いに目を合わすことはなかったという(ワシントン・ポスト紙=WP)。

 韓国大統領府は、閉会式終了後、北朝鮮代表団は閉会式の場での文大統領との会談で、「南北関係と朝米関係はともに前進しなければならないという(韓国側の)考えに同意した」と発表。文大統領本人も閉会式に先立ち、「北朝鮮側にできるだけ早く米朝会談を実現すべきだと伝えた」と明かし、閉幕から一夜明けた月曜日には「アメリカは対話のハードルを下げなければならない。北朝鮮もまた、核を放棄する意思を示さなければならない」と、引き続き対話路線を進めるキーパーソンの役割を果たす意思を示した。

◆平昌五輪は「北朝鮮のプロパガンダの勝利」
 文大統領のアピールとは裏腹に、米メディアにコメントを寄せる識者の多くは対話路線がそれほど前進したとは見ていないようだ。オーストラリア・グリフィス大学のアンドリュー・オニール教授は、「(五輪の夢から)現実に戻った人々は、急速に我に返るものだ。南北は厳密には戦争中であり、韓国内ではアメリカがそうであるように、北朝鮮にどう対処するかコンセンサスが取れていない」と、現実は五輪前と何も変わっていないと指摘する(CNN)。

 この見方を裏付けるように、韓国の国民感情は、文大統領の融和路線には懐疑的なようだ。アメリカに拠点を置く世界最大の政治リスクマネージメントコンサルティング会社、ユーラシア・グループの調査によれば、女子アイスホッケーの南北合同チームの結成に韓国人の72%が反対し、南北選手団が統一旗の下で行進することに約60%が不快感を示したという。また、五輪前の1月に行われたソウル大学による調査では、南北統一が必要だと答えた人は4割程度にとどまった。統一に最も反対しているのは20-30代の若い世代だという(CNN)。

 一方、豪RMIT大学のジョセフ・シラクサ教授は、平昌冬季五輪は北朝鮮側の「プロパガンダの勝利」だったと見る。北朝鮮は韓国側からの招待という形で五輪に参加したが、それにより面子を保ち、費用負担も免除されたことが大きかったと言う。そして、「美女応援団」「フレンドリーな金正恩委員長の妹」「亡命者が出なかったこと」が、韓国人に好印象を与えたと指摘する。これにより、「統一を望む韓国人と、それを望まない韓国人との間に楔を打つことに成功した」というのが、同氏の分析だ(CNN)。

◆米韓軍事演習への北の反応が鍵か
 ホワイトハウスは、今のところは様子見の構えだ。閉会式終了後、報道官が「対話を望んでいるという今日の平壌のメッセージが、非核化への第一歩を示すものなのか、注視したい」というコメントを発表している。しかし、裏では対話再開に向けた実務者レベルの秘密会談が行われたのではないかという憶測も飛んでいる。

 WPによれば、識者の多くが、閉会式に出席した北朝鮮代表団の中に、対米部局のチョウ・カンイル副部長の姿があったことと、米側に国家安全保障会議のコリア・ディレクターで、北朝鮮問題担当のキーパーソンであるアリソン・フッカー氏の姿があったことに着目。「両者ともオリンピックのセレモニーにも南北関係にも無関係だ。しかし、両者とも会談相手としても『事前会議』の担当者としてもふさわしい高官だ」と、ソウル・延世大学のジョン・デルーリー教授は語る。フッカー氏らとともに閉会式に出席したホワイトハウス報道官は、閉会式前には「会談の予定はない」と述べる一方、終了後には「朝鮮半島における完全な、検証可能な、不可逆な非核化に取り組む」というコメントを残している。

 オリンピックに続く平昌冬季パラリンピックは3月18日に閉幕する。その後、延期されていた毎年恒例の米韓合同軍事演習が行われる予定だ。北朝鮮は、この演習を「戦争のリハーサルだ」と強く非難している。ソウル・東国大学の北朝鮮問題専門家、コ・ユハン教授は、実際に演習が行われた際に、もし、北朝鮮が激しく反応することを避ければ、本気で対話を望んでいるサインと見ることができるとブルームバーグにコメント。それが、「アメリカと北朝鮮が、平壌の核開発を凍結するための対話を始める良いきっかけになるかもしれない」と同教授は語っている。

Text by 内村 浩介

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