苦境が続くミャンマーを、駆け引きの一部と見る中国

Sk Hasan Ali / Shutterstock.com

著:Tom Harperサリー大学 Doctoral Researcher in Politics)

 ミャンマーのイスラム教徒・ロヒンギャに対する政府の非道な政策が、2016年に国際社会からの厳しい非難の的となって以降、同国の民主主義の象徴ともなっているアウンサンスーチー氏は、迫害を受ける少数民族についての発言を控えるようになった。スーチー氏は、ミャンマーが再び孤立状態に陥る事態を防ごうとし、近隣諸国の中でも最も強力な権威を振りかざしている、中国との関係を深めている。民主主義が生まれて間もない国家は独裁国家とあまり関わりを持たないというのが一般的な見方だが、それは間違いのようだ。

 ロヒンギャ問題への懸念が深刻化する以前は、ミャンマーといえば民主主義への移行が西欧諸国からの注目を集めていた。しかし実際のところ、ミャンマーは今もなお軍の支配下にあり、同国において西欧民主主義諸国の影響力は、中国に及ばない。中国の途方もなく壮大な一帯一路構想に欠かせないパートナーとなることが確実視されるミャンマーでは、中国の利権が経済を左右するというのが現状だ。

                                                                                                                 

 確かに中国は、ミャンマーにとってはインド、ロシアと並び、国際社会における大きな味方だ。そしてこの3カ国はいずれも、同じような火急の課題を抱えている。その1つが、戦闘的なイスラム過激派の脅威だ。ロヒンギャの武装組織が、パキスタンの過激派組織と繋がりを持つようになったのは、中国がパキスタンに対し、アジアにおける中国の利権に害を及ぼす恐れのあるイスラム原理主義組織への支援を止めるよう圧力を強めている最中のことだ。

 中国は、中国の領土であるウイグル自治区におけるイスラム教徒の暴動も含め、この厄介な状況を鑑みた結果、ミャンマーのロヒンギャ迫害を、支配下にあるミャンマー国内の問題としてではなく、安定的な地位を確立するためのより大きな問題の一部分として見ている。

 中国のその戦略の中に組み込まれることになれば、ミャンマーは、他の様々な面でも役割を果たすことになるだろう。

◆中国のやり方
 中国はこのような地政学的影響を、世界各地に及ぼそうと目論んでいる。現在、中国の対アジア外交政策は、インフラ、開発支援、さらに一次産品の輸入に重点的に取り組むという対アフリカ政策と、同じ軌道を辿っている。このような外交政策から、アフリカ諸国が長期的な利益を得られるかというと疑問の余地があるが、もう少し短期的に見てみると、中国がアフリカ大陸に、極めて大きな影響を及ぼしていることは否定できない。

 中国の対アフリカ政策において、多くの批判を受けているのが、スーダンなどの横暴な独裁政権を支持しているという点だ。スーダンの場合、中国は2000年代に勃発したダルフール戦争における虐殺を支持した。政府が民主主義へと転向した場合でさえ、アフリカ諸国が必ずしも中国の影響力を免れるとは限らない。

 ザンビアの故マイケル・サタ元大統領は、2011年に中国のポピュリズムを批判することで勢いに乗り、政権の座に就いた後、同国における中国の利権にとっては厄介な存在になると思われた。台湾を歓迎する意向を示唆したこともあり、台湾を「言うことを聞かない州」だと表現する中国にとっては、直接的な侮辱であった。しかし結局、サタ氏はこれを実行せず、ザンビアと中国との関係を容認した。

 ミャンマーや、似た境遇の国々に対する中国のアプローチから、わかることは何だろう。ミャンマーでは民主主義への移行が期待されたが、政権の民主化が進んだとしても、必ずしも中国の影響下から脱する訳ではない。多くの国にとって中国の力はあまりに大きく、根本から無視することはできないようだ。

 中国の影響力は、その外交政策の並外れた一貫性よってのみ支えられている。アジアのほぼ全域と、さらにヨーロッパにまで及ぶ一帯一路構想を推し進める他にも、中国は旧ソビエトの領土であろうが東南アジアであろうが関係なく、「近隣諸国」のうち友好関係のある国々に基盤を作ろうと、慎重に事を進めている。

 このことを踏まえると、ドナルド・トランプ大統領と金正恩国家主席との舌戦の最中に、中国が北朝鮮を支援することにも説明がつく。中国の対北朝鮮政策は、北朝鮮を上手くコントロールできないように、時に頓挫することもあるが、それは同時に、他の国々と比べると、中国がより大きな影響力を持っていることも表している。つまり現状では、西欧諸国が北朝鮮に立ち向かおうと、どのような対策を講じるにしても、中国の援護なしには実現できないのである。

 さらに南シナ海の問題がある。かつては「アメリカの湖」とも呼ばれていたこの海は、今では中国がほぼ全域の領有権を主張しているが、それは自国の利益のためばかりではない。政治理論学者のジョン・ミアシャイマー氏が『大国政治の悲劇』で論じたように、野心に溢れた超大国は、世界覇権を握る前に、その影響力の圏内をすべて支配しようとする動きを見せる。

 つまり、中国にしてみれば、現在も解決の目途がたたないロヒンギャ問題は、中国の利権にとって重要となるアジアで起こっている、様々な出来事のひとつに過ぎない。中国は、国際社会がミャンマー政府の行いに耐えかねて、怒りを爆発させたとしても、中国の首尾一貫した外交政策を邪魔することは許さないだろう。中国の外交政策は、利権目当ての博打ではない。入念に計画を練った壮大な駆け引きだ。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article
Translated by t.sato via Conyac

The Conversation

Text by The Conversation

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