「無慈悲だが現実的」兵器開発・国内統制で見せた金正恩氏の手腕、米メディア高く評価

Ahn Young-joon / AP Photo

 2017年は北朝鮮の話題に事欠かない年だった。大陸間弾道ミサイルの射程内に入ったアメリカでは、各メディアが2017年の北朝鮮の動きを振り返っている。「炎と怒り」などで緊張を煽るだけに終わったトランプ氏に対し、金正恩氏は核ミサイル開発や国内統制などで実績を示した。無慈悲だが現実的なリーダーと評するなど、アメリカメディアは氏の政治手腕を意外なほど高く評価している。

◆核ミサイルは9割方完成
 2017年の年明け早々、金正恩氏は大陸間弾道ミサイルのテストが最終段階に入ったことを宣言した。ワシントン・ポスト紙(12月24日)ではこの宣言がほぼ達成されたものと見ている。元CIA職員は、核開発の90〜95%が完了したと分析しているようだ。あとは大気圏への再突入体を完成させるだけだという。元職員は「技術的には、核兵器でアメリカを確実に脅すところまでわずかあと一歩の可能性がある」と分析している。

 これは公約の実現に失敗したトランプ氏と好対照だ。NBCニュースによるとトランプ氏は、アメリカを射程に入れた弾道ミサイルの開発阻止を年初にツイッターで宣言しておきながら、これに失敗している。技術開発を進める北朝鮮を前に、トランプ氏は無力だと記事では評価する。兵器開発の視点で2017年を振り返ると、金正恩氏の実績はアメリカメディアも認めざるを得ないようだ。

◆国内統制を冷徹に実行
 内政にも抜かりがない。ワシントン・ポスト紙は、金正恩氏の異母兄弟である金正男氏が2月にクアラルンプールの空港で殺害された事件に触れている。これは政権争いを防ぐための暗殺だったと見られている。また、方針の対立する上層部を次々に解任するなど、政権安定のために手段を選ばない様子が伺える。

 NBCニュースでは妹の金与正を政治ポストのトップに昇格させたことを紹介し、政権をより盤石なものに仕上げていく様子を伝えている。

 金正恩氏が北朝鮮の統制に成功しているのは、祖父の金日成氏に似た風貌が大いに役立っているようだ。タイム誌は、金日成氏が建国の父であり、多くの国民にとって神のような存在であったと回顧する。祖父から受け継いだ外観は、金正恩氏の資産の一つであると記事では結論づけている。

◆総合評価
 ワシントン・ポスト紙は、金正恩氏を「現実的なリーダー」と捉えているようだ。27歳で国のトップに就任した当時は、実力に疑いの目が向けられていた。しかし今や父や祖父以上の手腕を見ており、就任時の政権崩壊直前のような状態とは程遠いという。ある北朝鮮関係のコンサルタントは、氏の冷淡な行動の裏には必ず理由があると分析している。政権の存続という最優先課題があり、ミサイル開発や異母兄弟の暗殺などは全てその目的に適っているとのことだ。行動の全てを熟考した、無慈悲だが現実的なリーダーだと評する。

 ただし、北朝鮮国内の惨状に目を向けた場合、トランプ氏には及ばないとする意見もある。NBCニュースは、トランプ氏は裕福で安定した民主主義国のリーダーであり、それだけで貧しい孤立した国のリーダーである金正恩氏を大きく凌ぐと評価する。国のために必要ならば人も殺す北朝鮮は、未来のビジョンがなく人々も幸福ではないと断じる。

 2017年のミサイル開発の実績は、標的となったアメリカの報道でさえ認めるところだ。しかし、自身の政権安定を最優先課題として国民を犠牲にする姿勢には、辛口の評価が下されているようだ。

Text by 青葉やまと