英国、EU移民に見限られ農作物収穫できず EU離脱への後悔「ブリグレット」広まる

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 店先に並ぶおいしそうなリンゴやラズベリー。こういった英国産のフルーツを摘み取るのは、実はEUから来る季節労働者たちだ。強いポンドと移動の自由に魅かれて集まったEU域内の移民がイギリスの農業を支えてきたが、ブレグジットを前にその数が大幅に減っている。労働者不足は農業以外にも広がっており、今後のイギリス経済への影響が心配されている。

◆収穫放棄やむなし。移民なしでは成り立たないイギリスの農業
 英農業生産者組合、National Farmers Union (NFU)によれば、野菜や果物の収穫のためイギリスで必要とされる季節労働者は約8万人で、最近はその75%がルーマニアとブルガリア出身者だという。ところが、2016年6月にブレグジットが決まり、2019年3月にはイギリスがEUを離脱することになったため、イギリスを目指す労働者の数が減少している。離脱決定後のポンドの下落と、ビザなし移動の自由が不透明となったことが一番の理由だ。また、ルーマニアやブルガリアの経済が好調なことも、出稼ぎ者の減少につながっているという。NFUは今年9月の時点で、移民労働者の不足は29%に達していたとしている(NBC)。

 フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は、失業率が低いことと、収穫作業が季節労働であることから、イギリス人労働者を雇って穴埋めすることは困難だと説明している。当然収穫する人のいない野菜や果物は放置されることになる。あるリンゴ農家は、収穫期を過ぎて生食用に出荷できなくなった100箱ほどのリンゴをジュース用に回した。スーパーでなら1級品として販売されるものだったが、価格は5分の1ほどになってしまったという。スコットランドの農家では、約50万ポンド(約7500万円)分のブルーベリーを摘み残した。ケント州の果樹園でも、全体の20分の1にあたる量のラズベリーを摘みきれず、約70万ポンド(約1億円)の損失を出している。ブロッコリーやカリフラワー、カボチャなどの人が手作業で収穫する野菜などにも影響が出ていると同紙は報じている。

◆国産野菜や果物が消える?焦る農業関係者
 このまま人手不足が悪化すれば、農家は労働集約型の作物の生産をやめるだろうと予想される。結果として、そういった作物は手に入れづらくなるか市場から消えるかのどちらかで、その代償を払うのは消費者だとNBCは述べる。また、野菜や果物のコストの10~60%は人件費だと言われており、労働者を集めるため賃金を上げれば、価格に当然反映されるとしている。

 NFUのミネット・バターズ副会長は、1945年から2013年まで存在していた、農業に従事する季節労働者向けの政策と類似するものを緊急で再導入すべきだと主張する。同氏は、ほとんどのEU加盟国はウクライナ、タイ、モロッコなどの域外の国々にまで労働者の対象を広げているとし、状況が悪化する前に政府が対策を取るべきだと述べている(FT)。しかしNBCは、ブレグジットが支持された要因の一つがより厳しい国境管理であったため、これ以上移民受け入れを話し合うことは政治的に有害だと述べ、しばらくはそのような措置はありそうもないとしている。

◆離脱後の読みが甘かった。人手不足は農業以外にも
 もっとも、このような農家の苦しみは、自業自得ではないかという意見もある。EU離脱を問う国民投票は、52%対48%で離脱派が勝利したが、多くの農業組合が労働者不足を警告していたにもかかわらず、イギリスの農家の多くは離脱に賛成していたとNBCは指摘する。インデペンデント紙によれば、移民労働者不足で65%の労働力しか確保できず、地元の農業が崩壊すると危機感を募らせるコーンウォール地方でも、実は全国平均を上回る56%以上の人が離脱を支持していたという。

 ロイターによれば、移民労働者不足の影響は農業以外でも出ている。公式の統計によれば、8月の純移民数はここ3年で最低となり、減少の半分はEU離脱を問う国民投票以来EU市民が流出し、流入が減っていることによるという。イギリス求人雇用連盟(REC)のケビン・グリーン氏は、EUからの労働者の減少を受け、将来の移民制度がどうなるのかを明確にしなければ、状況は悪化し、雇用者はさらなる人材不足に直面するだろうと警告している。

 交渉の速度が増し経済的余波が明白になるなか、世論調査ではブレグジットへのサポートが減少しているとNBCは報じている。離脱を後悔するブリグレット(Bregret)が、イギリス社会にじわじわと広がっているようだ。

Text by 山川 真智子