米中のハイテク軍拡競争は東アジアを不安定化させる脅威

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著:James Samuel Johnsonレスター大学 Geopolitical Risk & Defense Analyst)

 東アジアは、数十年にわたる平和な時代を経て、現在は緊張に覆われている。そして、2つの軍事大国がきわめて憂慮すべき手段で覇権を争っている。

 米国と中国は、自国にある資産を動かし、その能力を高められるよう、先進的な軍事システムを着々と蓄積しつつある。トランプ大統領の外交政策に対する姿勢がいまだ不明確で、中国の域内覇権に向けた野心がかつてない大きさになっている現在、両国とも、新たな軍事資産を投入することで相手国の優位性を否定しようと躍起だ。

 その結果もたらされるのは、地域の不安定化と軍拡競争の激化である。北朝鮮、南シナ海その他どこであれ、この地域で大きな紛争や危機が勃発したとき、両国は強迫観念にそそのかれて脆弱な自国の戦場資産を保護するための先制攻撃を仕掛ける誘因を持つだろう。

 これは特に中国に当てはまる。「空母キラー」と呼ばれる対艦ミサイルを含め、この国が有する既存の戦闘能力の範囲は広いものの、進化した武装手段を動かし、能力を高めるハイテクなシステムに関する思考を検証する機会は、これまでほとんどなかった。

 このシステムは、中国が持つ軍事力手段の攻撃範囲、正確性、致死性を向上させている。戦闘手段としては、緒戦や先制攻撃で使用される長距離精密照準爆撃ミサイル、敵の目をかわしコマンドセンターやコントロールセンターを破壊するステルスジェット戦闘機、宇宙ベースの諜報、監視、偵察システムを破壊する対衛星ミサイルのほか、レールガン、「ステルスに強い」量子レーダー、自律システム等の新興テクノロジーもある。

 中国がこうした最新鋭のテクノロジーと既存の戦闘力とを統合することができれば、地域の軍事バランスは根本的に変化するだろう。現時点ですでに、中国が望む方向に急速に向かいつつあるのだが。

 中国の軍事誌には、南シナ海の「中心的な指導力」を確保するため、戦争に向けた準備をすべきだと書かれている。

 中国人民解放軍が、根深い軍隊間の派閥争い、独特の官僚主義的な問題、現代の軍事ハードウェアを使った実戦経験の不足といった問題を克服できるかどうかは定かではない。しかし、もしそれが可能となれば、領土問題を抱えている尖閣諸島で水陸からの攻撃、台湾の封鎖、南シナ海にある重要な交易海路を統制する将来の軍事行動の際に、かなり効果のあることが証明されるだろう。そしておそらく、近隣諸国はこれに十分対抗できないだろう。

◆初の「量子」パワー?
 中国は2016年、世界初となる量子通信衛星「墨子」を打ち上げた。この通信実験により、急速な進化を遂げている中国の量子情報科学が世界にアピールされるだろう。中国は明らかに、量子テクノロジーが未来の戦争遂行に際して持つ戦略的な意味をよく理解している。実際、量子パワーの戦略的な影響を、核兵器になぞらえている中国の軍事アナリストもいたほどだ。

 米国防総省にとっての懸念材料は、量子通信機能を仮想的な「局地戦」に投入できることについて、中国の戦略家たちが自信を持っているように見えることだ。もし中国が米国を凌いで世界初の「量子大国」になることができれば、米国が持つ軍事技術の優位性、特に軍事用ステルスや機密情報収集の能力に対し、深刻な脅威となるだろう。

 こうした中国からの挑戦が持つ意義を強調することを目的として、ホワイトハウスは最近、戦時における情報中心の手法が、ますます中国の量子技術に包囲されつつあると公式に警告を発した。伝えられるところによると、中国はすでに軍事的な応用が可能で、破壊的な力を持つ量子テクノロジーを複数開発しているという。これには、「ハッキングできない」量子暗号、軍事通信の暗号を解読する洗練化されたツール、次世代ステルス量子レーダーなどがある。

 こうした挑戦を受けているにも関わらず、米国防総省は未だに、量子テクノロジーの開発に有意なリソースを投入するというコミットをしていない。おそらくは、このようなシステムによって軍事通信のセキュリティを顕著に向上させることはできないと、政策専門家が結論付けたのだろう。最近5年間の事実が示している通り、中国からの挑戦に真正面から対抗することをしないばかりか、米国の重要なハイテク軍事技術に対する投資は減少さえしている。

 逆に言えば、たとえ中国の量子テクノロジーの軍事用途が限定されていたとしても、中国はアジアにおける将来の軍事バランスを劇的かつ非可逆的に変化させることができるだろう。

◆先制攻撃
 アメリカ政府が特に恐れるのは、中国が技術的、組織的な欠陥を克服するやいなや、アジアで専制的かつ高圧的なミッションの遂行に向け、破壊力の点で効果のある新たなツールをいつか手にするようになることだ。こうした武力は、とりわけ西太平洋に展開している米空母や米軍基地への攻撃が可能となるものだろう。

 同様の懸念材料は、中国が、特に南シナ海にある領土問題の解決されていない(そして広範囲での紛争が絶えない)地域での主権を維持し、これを拡大している現在、上記の武力を持つことで、より強引かつ攻撃的になる力をこの国の指導者たちに与える事態になりかねないことだ。

 さらに懸念材料が必要であるかのように、中国国防省は、トランプ政権が台湾のために新たな軍事パッケージを作りだそうとしているという報道に対し、中台統一を避けるために軍事力を用いるのは台湾にとって意味がないとして、これに反論していた。誰もが想像するように、手ごわい新型の軍事力を備えた政権からの発言として、かなりの自信と決意をもった主張だといえる。

 これまでの話はすべて、きわめて重要な問題である。米国と中国は、不安定化する力学を緩和し、先制攻撃の誘因をなくすための手段を見出さなくてはならない。それをしないと、両国関係およびアジアの安定にとっての重大性は計り知れない。

 現在、太平洋をまたぐ両大国は、不確実・不安・不安定の罠に陥っている。このような状況では、防衛行為やレトリックが攻撃的とみなされる。その結果、軍拡競争が起こり、最終的には本格的な武力衝突にまで発展しかねない。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Conyac
The Conversation

Text by The Conversation