温暖化で深刻な被害のニカラグア、なぜパリ協定不参加? 米とは違うその理由

 トランプ米大統領は1日、気候変動に対処するための国際的な枠組みである「パリ協定」からアメリカが離脱すると発表した。これによりアメリカはパリ協定に参加していないシリアとニカラグアと肩を並べることになった、とメディアは大いにその決断を批判している。しかし政治的混乱の中にあるシリアはさておき、ニカラグアの主張はアメリカとは180度異なるものだ。

◆世界190ヶ国以上の国際協調。北朝鮮でさえも参加
 トランプ大統領は、パリ協定は他国の利益のためにアメリカの足を縛り、不利益を被らせ、疲弊させる取り決めだと述べ、離脱を宣言した(BBC)。ワシントン・ポスト紙(WP)によれば、パリ協定には190ヶ国以上の国が参加しており、核・ミサイル問題で孤立する北朝鮮や、紛争の続くイラク、イエメンでさえ調印している。アメリカが離脱することで、今後の温暖化対策に支障が出る可能性もある、と多くのメディアが指摘している。

 パリ協定に参加しない国は、アメリカ以外にシリアとニカラグアがある。シリアが参加していない理由として、事実上アサド政権が国際社会から排除されているため、また7年間続く内戦で国が割れ、協定の交渉に参加できる状況になかったためとWPは説明している。しかし、ニカラグアの場合はこれまでの交渉に参加しており、化石燃料を燃やしたい訳でもないとBBCは説明し、参加を拒否した理由は、パリ協定の仕組みにあると指摘する。

◆自主的な削減目標で温暖化阻止は無理。ニカラグアが苦言
 ニカラグアは、2017年の世界気候危機インデックスでは、ハイチ、ミャンマー、ホンジュラスに次いで世界で4番目に深刻な気候変動による被害を受ける国と予測されている。よって温暖化に対する危機感は当然高い。

 スレート誌によると、2015年のパリでの交渉に参加したニカラグアのポール・オキスト主席交渉官は、パリ協定の問題は各国が自主的に決定する約束草案(INDC)にあると述べており、INDCは温室効果ガスの排出削減目標を自由意思で決めたものであるため、拘束力はなく結局失敗に終わると見ている。パリ協定のゴールは、産業革命前に比べて気温上昇を最大2度に抑え、可能であれば1.5度以内に抑えることを目指すものだが、同氏は現実には3度も視野に入っているとし、平均気温の上昇を2度、ましてや1.5度に抑えることなど無理で、実現にはより多くのアクションが必要だと話している(BBC)。「世界の気温を3~4度上昇させ、死や破壊をもたらす協定の共犯者にはニカラグアはなりたくない」というのが同氏の主張だ(WP)。

 同氏はまた、気候変動には温室効果ガスの排出量が多い国ほど大きな責任を持つべきと断じる。アメリカの二酸化炭素排出量は中国に次ぎ世界2位だが、ニカラグアは131位だ。ニカラグアは1998年に京都議定書に調印し、翌年批准しているが、このときは締結国のうちの先進国には削減義務や事実上の罰則規定に当たるものもあり、ニカラグアがパリ協定に求めていたものは、このような拘束力ある関与だとスレート誌は指摘している。

◆再エネ加速で高評価。他の環境問題では微妙な対応も
 BBCによれば、ニカラグアのエネルギーの半分以上は、再生可能な資源から作られており、2020年までには再生可能エネルギーの割合を90%にまで高める計画だという。2013年の世界銀行のレポートでは、地熱、風力、太陽光、波力などの広い可能性を持った「再エネパラダイス」として、環境にやさしい取り組みをポジティブに紹介されている。

 もっとも、中国資本で建設が予定されている運河を巡っては、ニカラグアは環境保護団体から厳しい批判を受けている。新鮮な地下水をたたえた土地や、住民の水がめであり数十種の魚の住処でもあるニカラグア湖が、工事によって汚染されることが人権団体により懸念されているとのことだ。運河を監督する機関の責任者は、他でもないオキスト氏だとスレート誌は指摘し、環境問題でのニカラグアの取り組みが完全にクリーンなわけではないと述べている。

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Text by 山川 真智子