法律にコンマがなくて勝訴、残業認められる! 英語圏注目「オックスフォード・コンマ」裁判

「オックスフォード・コンマ」という言葉をご存知だろうか。別名「シリアル・コンマ」とも呼ばれるこのコンマは、英語で3つ以上のものを羅列するときに、最後のアイテムの前のandやorの前につけるコンマのことだ。学生時代に学んだかたも多いのではないだろうか。

 オックスフォード大学プレスの編集者や読者に伝統的に使われてきたのでこの名がつき、長年表記の基準とされてきた。しかしながら、今日ではその用法は「オプショナル」とされ、学術論文などでは見かけるものの、ほかでは恣意的に使用されることも多い。のみならず、「オックスフォード・コンマなどどうでもいい」という声も多く、用法にこだわる一部の人が「文法オタク」などと揶揄されることも少なくない。そんな「文法オタク」たちを喜ばせる判決がアメリカで出た。

◆条文をよく読むと……
 米メイン州で、乳製品会社とその流通ドライバーとの残業代をめぐる係争が起こり、ドライバーたちは運送にかけた時間が残業に値するとしてその分の賃金を請求していた。審理の結果、第一巡回区控訴裁判所はドライバーたちの申し立てを支持した。その根拠となったのが、法律条項のなかで「欠けている」オックスフォード・コンマの存在だった。メイン州の労働時間と賃金に関する法律では、労働者は週40時間を超える勤務には1時間あたり通常の賃金の1.5倍の残業代を受け取ることが保障されている。ただし、残業から除外される作業もある。以下がその部分だ。
 
The canning, processing, preserving, freezing, drying, marketing, storing, packing for shipment or distribution of:
(1) Agricultural produce;
(2) Meat and fish products; and
(3) Perishable foods.

 問題となったのはpacking for shipment or distribution of「~の搬送と流通のための梱包」の部分。もし or distribution の前にコンマがあったなら、「~の搬送のための梱包、そして流通」と、流通が除外される作業の1つとして独立することは明確だった。しかし、コンマがないおかげで、搬送のためだけの梱包なのか、搬送と流通両方のための梱包なのかが曖昧になったのだ。ドライバーたちは流通のみを担当し、梱包は自分たちで行ったわけではなかったので、当然流通にかかる時間を別のものとしてとらえていた。

 また、判事は別の文法的曖昧さも指摘している。作業の羅列として、canning, processing, preserving …と現在進行形が並んでいる最後にpacking for shipment or distributionがくると、視覚的にもshipment or distributionをセットとして認識してしまう。(ワシントン・ポスト紙

 ちなみに、ドライバーたちは週平均12時間の残業をしており、2014年に訴えを起こしたのは3人のドライバーだが、今後支払われる金額は75人で分けられることになるという。

◆コンマの使用はどちらが主流?
 実社会でのオックスフォード・コンマの使用状況はどのようなものなのだろうか。ニューヨーク・タイムズ紙によると、2014年のある調査では、57%のアメリカ人が使用に賛成、43%が反対とある。分野によっても違う。書籍や学術論文では多く見られるものの、ジャーナリズムや一般社会では使用しないことの方が多い。アメリカでは、(NYTも含めて)ほとんどのメディアアウトレットが、混乱を招きそうな場合以外基本的に使用しないとある。一方、イギリスのガーディアン紙のスタイルガイド(統一書式マニュアル)では、オックスフォード・コンマは「必要ない」が、あると読者にとってわかりやすい場合もある、としている。

 筆者はカナダでESL(第二言語としての英語)、ジャーナリズム、アカデミック・ライティング、クリエイティブ・ライティングをそれぞれ修めたが、ESLでは「どちらでもいいが、使うか使わないかを決めて一貫させること」と教わった。一方ジャーナリズムでは、ほとんどのメディアがカナディアン・プレスのスタイルガイドに準拠するが、筆者の手元にある第15版には「混乱がない限り使わない」とある。実社会でも、学校で学んだパンクチェーション(句読点使用法)と異なることが多かった。
 
 今回の判決を受けて、オックスフォード・コンマ派がツイッターやフェイスブックなどで歓喜の声をあげている。今後は「正統派の使用法」が主流となるかもしれない。

photo Jpeg/shutterstock.com

Text by モーゲンスタン陽子

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