EUは解体に向かうのか? 押し寄せる右傾化の波……移民とEUの理想が招くポピュリズム

 ヨーロッパが変わりつつある。イタリアとオーストリアに続き、来年の3月にはオランダの下院選挙、4~5月にかけてフランスの大統領選挙、そして9月にはドイツの連邦議会選挙が行われるが、国民の投票結果が政治形態そのものを根本から揺るがす起動要因となる様相を呈している。英国EU離脱に続き、次はどの国が共同体から「独立」するのか。「EU解体か?」とまで称されるこの動きは、真実なのか。

◆イタリアとオーストリアの場合
 イタリアでは12月4日に国民投票が行われた。目的は憲法改正の是非を問うためのもので、これまでの二院制を事実上の一院制にするか否かを投票で決めるためだ。EU体制を支持している与党は一院制体制を強く推しているが、逆に二院制を支持する野党はEU離脱を目標に掲げており、後者が圧倒的支持を受ければイタリアのEU離脱が青写真に描かれるというわけだ。事前の世論調査によれば、EU離脱案を推す政党への支持率は40%を上回っていたが、フタを開けたらやはりその通りの結果となった。

 奇しくも同日、オーストリアでは大統領選が行われている。選挙を争うのはEU残留を望むリベラル系の「緑の党」のベレン氏と、極右・自由党でEU離脱案支持のホーファー氏である。もしホーファー氏が勝利をおさめれば、EU初の極右国家元首になることから、世論の注目を大いに集めた。昨年以降、オーストリア国民の間には難民問題の解決に悩むEUへの不満が高まっており、「反難民」を謳うホーファー氏への支持が高くなっていたが、結果はベレン氏の勝利に終わった。

◆解決策がない移民・難民問題
 EU離脱案を掲げる党首に賛同する国民が増えた理由は明白だ。EU共同体から「独立」すれば、国民最優先の政治体制が整う。そうなれば、EU諸国が共同で解決すべき「難題」の移民問題にたずさわる義務も失せる。難民受け入れのノルマからも解放される。

 ただ、移民・難民排斥や、反グローバリゼーションを叫んだトランプ氏の当選とヨーロッパの政情が連動している、と断定できる素材はどこにもない。ヨーロッパはあくまでもヨーロッパである。脱EUを大義名分として掲げつつ、国民最優先と叫び支持を集めるヨーロッパの政治家たちの思想と、トランプ氏の理想には、基本的に似通った部分があるかもしれない。しかし、ヨーロッパも移民・難民排斥主義にのっとって「トランプ化」する勢いとは、決して言い切れないだろう。

◆グローバリゼーションの難点
 事実上国境がないヨーロッパ大陸では、グローバリゼーションが良い意味でも悪い意味でも、いとも簡単に実現できてしまう土壌があることは確かである。たとえば、安い賃金で長時間働くことが可能な労働者が異国から来たとすれば、当然雇用主は彼らを優先して雇いたがるだろう。しかし、自国民からすれば、「異国から来た労働者に、私たちの貴重な職が奪われた!」ということになる。これが半グローバリゼーション化を扇動する原因になり、ひいてはポピュリズムの台頭だ、というのだ。

 しかし、実際のところはどうだろう。筆者が住むオランダの例だが、オランダ人たちが絶対にやりたがらない仕事、たとえば夜間の土木作業や清掃、警備などを、東欧諸国やアフリカなどからやってきた労働者たちが代行しているにすぎない。だが、これをグローバリゼーション化のせいにして、「オランダ人以外の人たちに、仕事を取られた!」と恨み、右寄り思想に傾く中間層・弱者層が増えていることは確かだ。

◆ヨーロッパの将来は?
 事実、オランダでは極右政党が保守層やEU離脱賛成派からこれまでにないほどの支持を集めており、議席獲得数は過去に例を見ないほど多くなっている。来年3月に行われる下院選挙では第一党になるのではないか、と大胆な予想もなされているが、結果はどうなるだろうか。また、来年4~5月にかけ、フランスでは大統領選が行われる。EU残留を望む現職オランド大統領は立候補を断念する考えを表明している。さらに9月にはドイツで連邦議会選挙が行われるが、与党が敗北しナショナリズムが国民の間で巻き起こり、それが政治に響くようなことがあれば、EUの確固たる位置づけすら揺らいでくるだろう。

 今後のヨーロッパはどうなるのか。どの国がEUを去るのか。EUは、遅かれ早かれ解体してしまうのか? それとも、やはり相互間で安定を求める人たちの声がEUを守るのか。予測はまだ誰にもできそうにない。

Text by カオル イナバ

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