“中国で公開できるように中国企業と組む”動き強めるハリウッド、それを利用する中国政府

 世界4大会計事務所の1つ、プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が8日発表したところによると、2017年、中国における映画の興行収入が、アメリカを抜いて世界最大規模となる見通しだ。ハリウッドにとって中国は重要な市場となっている。しかし中国には、上映可能な外国映画の本数に厳しい制限がある。それを回避するため、ハリウッドでは映画会社が中国企業と手を結ぼうとする動きが活発化しているという。中国からハリウッドへの投資も盛んになっている。

◆中国の映画市場は急速に拡大中
 PwCは8日、「世界エンターテインメント&メディア見通し2016-2020」を発表した。世界のエンターテインメントコンテンツ、メディアコンテンツに直接関連する消費者支出と広告収入の、今後5年間の展望レポートである。

 それによると、2017年、中国の興収は103億ドル(1兆977億円)、対してアメリカは101億ドル(1.兆764億円)になるとの見通しだ。アメリカがこの分野で首位転落するのは初であり、またPwCのレポートが扱っている13分野全てにおいても、やはり初であるという。この差は2020年までにさらに拡大し、中国151億ドル(1兆6092億円)、アメリカ110億ドル(1兆1723億円)になると予想されている。中国の映画産業は、これほどまでに急速に発展中とみなされている。

 中国では、シネコン建設によりスクリーン数が増え続け、興収は景気の減速をものともしていない、とフィナンシャル・タイムズ紙(FT)は語る。また中国で拡大中の中間層は娯楽を求めていることや、1人当たり所得は1世代(約30年間)で20倍に伸びた、との背景を説明している。

 なお、PwCのマット・リーバーマン氏が米ニュース専門放送局CNBCに語ったところによると、中国の観客は全般的に、ファンタジー作品、アニメ、家族そろって楽しめる映画を特に期待しているようである。

◆外国映画は限られた本数しか中国での上映が認められない
 これほどの市場であってみれば、外国の映画産業からの注目度は高い。世界の映画会社は、中国が発展をもたらしてくれるとますます期待するようになっている、とウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)は語る。

 ところが、外国の映画産業にとって、中国参入には障壁がある。その最たるものは、中国当局が、外国映画の輸入本数を、利益配分型では年間わずか34本に制限していることだろう。FTによれば、この制限枠は、2012年にそれまでの20作品から34作品に引き上げられた。さらに拡大する交渉が近々始まる見込みだという。利益配分型は、興収に比例して印税を支払うもので、レートは25%と言われている。他に買切型の枠もある。

 この他にも、WSJによれば、春節のようなピーク時に外国映画の上映が禁じられる、といった措置も取られている。これらの制限は、中国国産映画が興収でより大きなシェアを占められるようにすることが狙いであると、WSJは説明している。

 また映画には当局の検閲が入り、FTによると、外国映画はいつも、会話のデリケートな部分、台湾、ダライラマ、果ては冷戦への言及をカットされるという。

◆中国のパートナー同伴なら閉ざされた“クラブ”に入れる?
 この外国映画の受け入れ制限枠を回避する方法もあって、その1つは、中国企業と合同で映画を制作することだ。FTは、例えば『カンフー・パンダ3』は、中国のパートナーを持つことによってこの制限枠を回避した、と伝えている。制作会社のドリームワークスは、中国資本と合弁で「オリエンタル・ドリームワークス」を中国に設立し、米中合作の形をとった。FTは、ますます多くの映画会社が、中国のパートナーを持とうとし始めている、と語っている。PwCのデボラ・ボサン氏も、今後ますます多くの米メディア企業が、このルールを切り抜ける助けとして、中国のメディアパートナーを探し出そうとするだろうとCNBCに語っている。

 ハリウッドの映画会社にとっては、そこまでする価値があるほど、中国市場には魅力があるようだ。FTによると、2015年に中国で公開された『ワイルド・スピード SKY MISSION』は24億元(390億円)、2014年の『トランスフォーマー/ロストエイジ』は20億元(325億円)の興収を上げた。前者は、WSJ(2015/4/19)によると、中国の外国映画輸入を所管する国営映画会社の出資を受けていた。後者は米中合作だが、FTによると、多くの人から「中国のために作られた」初のアメリカ映画との烙印(らくいん)を押されたそうだ。

 またFTは、一部の映画会社は現在、中国当局者の機嫌を積極的に取っていて、その見返りは非常に大きい可能性がある、と語っている。『アイアンマン3』の制作会社は一部を中国で撮影し、うわさによると、高級官僚を招いてセットを視察させ、主演のロバート・ダウニー・Jrに会わせていたとのことだ。中国での上映を期待してのことだとFTは語っている。

◆中国企業からハリウッドへの投資も活発化
 またFTの他記事によると、このところ中国からハリウッドへの投資が殺到しているという。この動きには、インターネット企業やエンターテインメント企業が関わっており、それらの企業はコンテンツを求めてハリウッドの映画会社に投資しているという。またアナリストらによると、将来の元切り下げに備えて海外投資したがっている企業もあるようだ。中国人顧客に娯楽とサービスを提供することを狙いとした対外投資については、中国政府も概して協力的だと、この分野に明るい3人の銀行家と投資家が語ったとFTは伝えている。

 またハリウッドの企業側からしてみれば、中国からの投資が、ある場合では制限枠を回避するのを助けたため、投資を受け入れてきた、とFTは語っている。両者の利害は一致しているようだが、中国政府にしてみればこの状況は狙いどおりのものだろう。先に触れた合弁会社設立の例のように、資本関係の強化が自国の映画産業の育成につながりうる。

「これは実証済みの中国式モデルだ。国内企業を、海外企業と真っ向から張り合えるほど、しっかりと力強いものに鍛え上げ、支えるため、(当局は)海外プレーヤーとの取引を用いる」とPwCのクリストファー・ボルマー氏はFTに語っている。

Text by 田所秀徳