バルカンルート閉鎖で難民は危険なイタリアルートに殺到か…EUの対応策とは?

 大量の難民のギリシャ流入を抑えるため、EUとトルコは、難民をトルコに強制的に送り返すことで合意した。これにより、欧州の難民問題も沈静化に向かうという期待が高まったが、今度はリビア経由でイタリアを目指す難民の増加が問題化しそうだ。

◆増えるリビア経由イタリア行き
 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の調べでは、今年1月から3月までに海路でイタリアにたどり着いた難民はおよそ2万人で、2015年同時期の約2倍となった。欧州に殺到する難民といえば、シリア難民を想像しがちだが、ニューヨーク・タイムズ紙(NYT)によれば、イタリアに来る難民のほとんどは、コートジボアール、マリ、ガンビアなど、サブサハラと呼ばれるサハラ砂漠以南のアフリカから脱出してきた人々だ。彼らは政情不安や圧政が続く自国を脱出した後、リビア経由で密航業者のボートに乗りイタリアを目指す。このルートは海が荒れるためかなり危険で、昨年だけで3000人以上が命を落としたとNYTは伝えている。

 UNHCRのイタリア事務所の報道官は、今年はリビアの気候が良いこと、またギリシャへの難民流入にEUの目が向いているため、今こそイタリア上陸のチャンスと難民が考えたことが、イタリアを目指す難民増加の原因ではないかと説明している(ニューズウィーク誌)。

◆EU・トルコ合意で新たなる問題が
 ニューズウィーク誌によれば、リビアが今よりずっと政治的に安定していた2014年には、多くのシリア難民がリビア経由でイタリアに渡ったという。距離的には長いものの、ギリシャ経由で最終目的地のドイツに向かうには、バルカン諸国を通過しなければならず、ドイツに近いイタリアのほうが好まれたためだ。しかし内戦でリビアの情勢が不安定になり、入国が困難となったため、圧倒的に多数のシリア人がトルコからギリシャへ渡るようになった。NYTによれば、昨年前半に78万人以上の難民が、トルコ経由でギリシャに向かい、バルカン半島経由でドイツやスウェーデンを目指したとされる(現在ではバルカン諸国の多くが国境を閉じ、ルートを塞いでいる)。

 ところが、EUとトルコの合意を受け、シリア難民らが再びイタリアルートに回帰するのではという懸念が出てきた。イタリア沿岸警備隊のニコラ・カルローネ氏は、バルカンルートが塞がれたことで、密航業者が北アフリカ経由でシリア難民を欧州に運ぶと見ている(エコノミスト誌)。

 イタリアの隣国オーストリアは、今年だけで30万人の難民がイタリアに渡り北を目指すと見ており、イタリアと北東ヨーロッパを結ぶブレンナー峠での国境管理を、より厳しくすると発表している。国境でのフェンス設置も辞さないというオーストリアに対し、開かれた国境を約束するシェンゲン条約に反するとイタリアは反発。ニューズウィーク誌は、ブレンナー峠の国境管理の厳格化で、難民がイタリア側に滞留する可能性を指摘している。増えるアフリカからの難民に加えシリア難民を抱えることは、イタリアには重い負担となりそうだ。

◆鍵はリビア新政府の取り組み
 シチリアのイタリア海軍のオペレーションを監督するニコラ・デ・フェリーチェ大将は、最大の問題はリビアにおける安定した政府の欠如であり、難民流入やテロリストの脅威をコントロールできていないことが問題だとした(NYT)。ニューズウィーク誌によれば、EUは警察、安全保障、テロ対策機能向上のため、リビアに使節団を派遣する計画で、すでに密航業者の摘発等にも力を貸しているが、リビアの領海に侵入する許可は得ておらず、リビア側での業者の取り締まりはできていない。

 幸いにも、リビアでは先月国連の仲介による新統一政府が立ち上がり、政治情勢は改善しつつあるようだ。難民支援団体は、新政府が難民危機を優先事項とするかどうかは、EUや国際社会からのプレッシャーにかかっているとし、リビア政府は、海上パトロールの強化、密航業者の摘発、EUのリビア領海へのアクセス許可などを進める必要があると述べている(ニューズウィーク誌)。

Text by 山川 真智子