「新冷戦」の危険? 中ロ、軍事協力強化で一致…ゴルバチョフ氏が懸念、欧米紙注目

 ロシアのショイグ国防相が17-19日、北京を公式訪問し、常万全国防相ら中国軍部の高官と会談した。中国国営新華社通信は、これにより、中ロ両国は積極的な合同軍事演習の実施や、ハイレベルの人事交流など「実用的な軍事協力」を強化することで合意したと報じている。

 欧米メディアも日米同盟などへ対抗する動きとみて、中ロ関係を報じている。英フィナンシャル・タイムズ紙(FT)は「世界は新たな冷戦の瀬戸際にある」というゴルバチョフ元ソ連書記長の発言を、このニュースに絡めて伝えている。

◆両国の思惑が合致
 ショイグ国防相は3日間の北京訪問で、常万全国防相、李克強首相らと会談した。FTによれば、両国は来春、近年で4回目となる海軍合同軍事演習を地中海で行い、引き続いて太平洋でも大規模な演習を行うことで合意した。また、軍部のハイレベルな人事交流を頻繁に行い、宇宙開発でも協力関係を強化することになったという。

 ロシア国営イタルタス通信によれば、ショイグ国防相は許其亮・中央軍事委員会副主席との会談の際に、「世界の状況は年々複雑になってきている。その中で、ロシアと中国の軍事及び軍事技術協力は特別に重要だ」と述べた。許氏は「中国とロシアの戦略的パートナーシップは新たなステージに入った。我々はそれを歓迎する」と答えたという。

 FTは、ロシア側の意図をウクライナ関連の制裁と結びつけ、次のように論じる。「プーチン大統領は西側の新たな制裁に備え、ロシアには他にも経済的・戦略的なオプションがあり、世界から完全に孤立しているわけではないことを示すために中国への接近を図っている」。東シナ海と南シナ海で日本と東南アジア諸国と対立する中国としても、アメリカや日本への対抗策としてロシアの申し出を歓迎している、と同紙は記している。

◆アジア太平洋地域でも「新たな冷戦」か
 ゴルバチョフ元書記長は、今月8日に開かれたベルリンの壁崩壊25周年記念行事の席で、「世界は新たな冷戦の瀬戸際にある。既に始まっていると言う人もいる」との懸念を述べた。ウクライナ情勢、中東情勢などを俯瞰しての発言だという。FTは、中ロの軍事協力強化を伝える記事にこの発言を引用し、アジア太平洋地域での中国と日米の水面下の対決も、この「新たな冷戦」の一部だという見方を示唆している。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙(WSJ)のコラムは、中国がかつての朝貢外交の時代に遡ったかのような、近隣諸国への「贈り物」攻勢で王朝時代の覇権を取り戻そうとしていると論じている。「金」がものを言うそうした戦略では、「ポケットの中に金がうなっている」習主席が、「ほとんど空のポケット」のオバマ大統領を圧倒していると記す。

 同コラムは、中国主導で設立準備が進む「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」が最近の中国の「贈り物」の最たるものだとしている。AIIBは、東南アジアや中央アジアのインフラ整備を目的としているが、約500億ドルの初期投資の大半は中国が負担するという。これに対し、アメリカはアジア諸国にAIIB構想から距離を置くようロビー活動をしているといい、ここでも「新たな冷戦」の構造が見え隠れする。

◆蜜月関係とはいかない?
 一方、中ロ両国は「お互いに近づきすぎることには警戒している」という見方も強い、とFTは記す。同紙はかつての冷戦時代の中ソ対立を踏まえ、「両国は不信と軽蔑の歴史を乗り越えるのに苦心している」と表現する。

「不信」の例として、同紙は軍事協力を強化すると言いつつ、ロシアは中国への最新軍事技術の売却は拒否し続けていると指摘。一方の中国は、日本とも関係強化を目指すプーチン大統領の動きに失望していると報じる。また、中国共産党のトップがロシアと緊張関係にあるフィンランドを訪問した件にも触れている。

 北朝鮮を巡る中ロ関係も微妙だ。ショイグ国防相が北京を訪問している頃、北朝鮮のトップレベルの代表団がクレムリンでプーチン大統領に面会した。そのため、金正恩第一書記が最初の外遊先に、中国ではなくロシアを選ぶのではないかという憶測を呼んでいる、と同紙は指摘している。

Text by NewSphere 編集部