居酒屋文化を海外に導入した日本人 当初寄せられた理不尽なクレーム

画像はイメージ(Flicker/ Yuya Tamai

日本の代表的な食文化の一つに、「居酒屋」があります。

【画像】カナダにある居酒屋風飲食店の雰囲気

お酒を安く飲めるだけでなく、おいしい料理も楽しめる居酒屋は、友達や職場の人と気軽に楽しめる場所として、日本人にとって欠かせない存在といえるでしょう。

店内の活気や親しみやすいスタッフの接客も、特徴的な雰囲気を作り出しています。

海外でも居酒屋を展開しているお店はありますが、現地ではどのような反応なのでしょうか。

カナダで展開する居酒屋風レストラン

海外では、食事をするところは「レストラン」、お酒を飲むところは「バー」と分かれることが一般的。

お酒と料理が両方楽しめる居酒屋は、来日する観光客にとっても珍しいようです。

NewSphereは、カナダのバンクーバーで居酒屋風レストラン「西瓜スナックバー(Suika Snack Bar)」で店長を務めているショウさんに話を伺いました。

Suika Snack Barは田丸商店が経営する日本食レストラン。”活気と感動”をコンセプトに、大衆居酒屋をイメージした作りで、1日に約300人ほど訪れる人気店です。

バンクーバーに姉妹店が5店舗あり、田丸商店は、カナダ以外にアメリカや台湾、日本でも展開しています。

Suika Snack Barがオープンしたのは、2010年。当初、日本食があまり受け入れられていない印象だったといいます。

オープン当時にジェネラルマネージャーを務めていた方によると、現地の人が日本食に馴染みがなく、またSNSも発達していなかったため、集客には苦労したそうです。

例えば、日本でおなじみの刺身の姿造りは、「見た目が気持ち悪い」とクレームが入ることがあったといいます。

「料理の見た目に対するクレームが、1日に少なくとも5件くらいありました。そういった声もあり、姿造りでの提供はやめました」と、当時のジェネラルマネージャーは明かします。

日本人にとって刺身の姿造りは、新鮮さを表現していると理解できますが、現地の人は生魚の頭や他の食材が加工なしで盛り付けられることに見慣れていなかったのでしょう。

まだ日本の文化がそこまで浸透していなかった頃は、刺身や海鮮丼などの認知度が低く、『日本食=ロール寿司』のイメージが強かったそうです。

カナダで居酒屋文化が受け入れられるまで

また、料理を他の客とシェアする習慣がないため、鍋など複数人が箸を使って一皿を共有するのに否定的な風潮もあったといいます。

しかし、移民の数が増えているカナダ。

近年、以前よりも他国の食文化が受け入れられるようになり、今は料理に対する否定的な意見は少なくなりました。

客層についてショウさんは「以前は2〜3割程度だったヨーロッパやカナディアン系のお客様も、今では5割程度に増えている」と説明します。

さらに、カナダでも日本の食材を取り扱う業者が増えたことから、お店で提供するメニューの種類も日本の居酒屋と引けをとらないほどだそうです。

「お客様が食べたいものを提供し、満足してお帰りになっていただきたいので、メニュー数も40から50品程度とバラエティ豊富に用意しています」とショウさんは語りました。

居酒屋の最大の特徴といえば、にぎやかな雰囲気。

しかしそれも、最初は『うるさすぎる』という意見があったのだとか。

店内には96の客席があり、15名ほどのスタッフが働いているため、ピーク時は店内に100人以上がいることも珍しくありません。

ときには会話がしづらいほど活気にあふれているそうです。

「日本の”おもてなし”として、スタッフ一同で元気にお客様をお出迎え、お見送りします。またキッチンにオーダーを伝えるためのコミュニケーションも店内の雰囲気を作り出しています」とショウさんは話します。

そのため、活気あふれる雰囲気は開店当初から変わっていません。

最近は日本へ旅行したり、旅行中に居酒屋のような活気ある飲食店を訪れたりした人も増えているため、店内の雰囲気に対して、否定的な意見は減っているといいます。

「以前よりも多文化が浸透してきたため、他にはないSuikaならではの雰囲気といった差別化を図る面では、Suikaはにぎやかで楽しい場所と認知されてきたと思っています」

現地の人にとっても、スタッフの「いらっしゃいませ」や「ありがとうございました」の元気な声かけは、パフォーマンスのように見えるのかもしれません。

カナダでお通しを提供しない理由

ショウさんのお店では、年に6回以上イベントを開催。

母の日やバレンタインには、400人以上が来店するそうです。

以前は、「うるさい」と思われていた居酒屋の活気あふれる雰囲気も、今ではカナダの人が特別な時間を過ごすための、粋な演出になっているのでしょう。

気になるのが「お通し」の提供。

お通しとは、お店が客から最初の注文を受けたことを示すために出される簡単な料理です。

現在では、お通しの料金は「席料」の意味を持っています。

日本ではよく目にするサービスですが、ショウさんのお店では、お通しの提供はしていないそうです。

その理由についてショウさんは「北米の文化にはチップ制度があるため、お客様が頼んでいない物を提供し代金をいただくことに違和感があります。また、アレルギーをお持ちの方や宗教的な理由から食べる物に制限がある方もいるため、トラブル防止の観点からもお通しは提供していません」と話しました。

日本でも、訪日外国人がお通しについて「頼んでいない料理」として困惑すると話題になっています。

「Suikaのコンセプトは居酒屋ではありますが、カナダだと日本食レストランの立ち位置になるのも、お通しを提供していない理由の1つです。日本でいうフレンチレストランでお通しがないのと一緒でしょうか」(ショウさん)

確かに、居酒屋以外の日本食レストランでお通しのようなサービスはありません。

海外のレストランでも「サービス料」というものがありますが、これはサーバーに支払うチップとは別に、お店に支払う料金です。

しかしお通しとは違い、メニュー表に記載されていることが大半。

「いつのまにか請求されていた」というようなトラブルはありません。

お通しは日本でのみ通用する習慣のようです。

「IZAKAYA」はカナダで人気上昇中

Smartscrapersによると、現在バンクーバーには500店以上の日本食レストランが営業。

海外でも居酒屋は、そのまま「IZAKAYA」と表記されており、人気の日本食レストランの一つになっています。

ショウさんのお店では、毎日レシピの修正やメニュー開発を行っているとのこと。

メニューには「包み焼き和牛ハンバーグ」や「本マグロの炙り押し寿司」、「味噌カルボナーラうどん」などがあり、実にさまざまです。

「初めての人はもちろん、常連の人が来店しても、初めてのメニューや期間限定の料理を楽しめるよう、常に工夫しています。また、日本のレストランと同じクオリティの食事を提供できるよう、日々努力しています」とショウさんは語りました。

海外でも、本格的な日本食を提供するレストランや日本文化を楽しめる居酒屋が増えたことから、ますます日本食の人気は高まるばかり。

世界でも「IZAKAYA」は、家族や友達と楽しく時間を過ごす場所として欠かせない存在になりつつあるのでしょう。

Text by 島田 そら