生体認証を使った仮想通貨「ワールドコイン」、可能性とリスクとは

ワールドコインのオーブとワールドIDカード|Business Wire

◆ワールドコインの可能性とリスク
 ワールドコインの重要性は、アルトマンのもう一つの活動であるAI(人工知能)開発の加速と密接に関係している。AIの進化が加速すればするほど、人間のプライバシーを保護しながらも、AIと人間をオンライン上で識別する必要性が高まる。さらに、AIの進化によってもたらされる経済的な利益を、社会に均等に配分するにあたって、ワールドコインを活用したユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)の実施も可能になるということも、彼らの視野に入っている。

 一方で、ワールドコインに対する懸念やリスクも指摘されている。イーサリアムの創設者であるヴィタリック・ブテリンも、ワールドコインの正式ローンチに際して、生体認証に基づいたプルーフ・オブ・パーソンフッドに関しての意見を公開し、懸念点を指摘している。たとえば、プライバシー保護というものの、個人の虹彩のスキャンデータが収集されるという点で、プライバシーが侵害される可能性はゼロではない。ワールドコイン以外の第三者が同じ個人の虹彩スキャンデータを持っている場合など、スキャンデータが個人情報を開示してしまうリスクがある。また、ワールドIDは、物理的なオーブというデバイスを展開する必要があるため、全世界の人々へのアクセスが現実的なのかどうかも疑問が残る。結局のところ、取り残される人々が出ることが考えられる。さらに、ワールドコインは、ソフトウエア部分に関してはオープンソースを謳ってはいるが、ハードウェアの部分は現状、中央集権化されていることも懸念される。そして、アプリを利用するために携帯がハッキングされた場合のリスクもあるだろう。

 ワールドコイン自体も現状の仕組みにおける限界やリスクを認識している。2年間の試験期間があったものの、世界的な正式ローンチからはまだ間もない。今後、運用がさらに進むにつれ、技術や仕組みの改善が進み、リスクを考慮した規制や法整備なども進むことが予測される。

Text by MAKI NAKATA