グーグルはなぜ新しい肌の色の評価尺度を導入したのか 画像検索などで利用

MSTスケールのデモ|Business Wire

◆グーグルのスキントーン研究とMSTスケールの導入
 こうした研究が明らかにしたマシンラーニングにおけるバイアスと、現在使われている肌色スケールの欠陥が、今回のグーグルによるモンク・スキン・トーン・スケール(MSTスケール)導入の背景にある。現在、使われている肌色スケールはフィッツパトリック・スケール(Fitzpatrick Scale)というもの。このスケールは1975年に米国の皮膚科医トーマス・B・フィッツパトリックが開発したもので、日焼けの起こり方、皮膚がん発生のリスク、皮膚科処置、化粧品反応などを評価するために用いられる皮膚科などの医療の文脈において適したスケールだ。フィッツパトリック・スケールは、テクノロジー業界などでも使われてきたが、このスケールは濃い肌色のバラエティに欠けているため、マシンラーニングの公平性を担保できないということが、いくつかの研究で指摘されている。

 MSTスケールは、人種とエスニシティに関する社会の不平等を研究するハーバード大学の教授、エリス・モンク(Ellis Monk)が開発したものだ。彼は、肌の色と、肌の色の濃さによる差別であるカラリズム(colorism)について長年研究を進め、より現実世界に即した10トーンの肌色スケールを開発した。MSTスケールは、フィッツパトリック・スケールに比べて、とくに濃い肌色を評価するのにより適しているという特徴がある。このスケールはすでにアメリカ国立衛生研究所(National Institute of Health:NIH)などの機関でも導入されている。グーグルはMSTスケールの導入によって、マシンラーニングにおけるバイアスを是正するという狙いだ。

 MSTスケールは画像検索結果の表示などに使われる。たとえば、ブライダルメークなどと検索すると以前であれば、薄い肌色のモデルの画像表示が中心であった。MSTスケールの利用によって、ユーザーはより自分の肌色に近い検索結果を閲覧することができるようになる。また、MSTスケールはグーグル・フォトにも導入される。昨年導入されたテクノロジー、リアル・トーン・フィルタとの併用により、より現実の肌色を再現するとともに、レプレゼンテーションの欠如という課題解決を目指す。

 グーグルは自社でMSTスケールを導入するだけでなく、スケールをオープン・ソース化することで、誰もがプロダクト開発などにこのスケール活用することを促進している。また、グーグルはMSTスケールに対するユーザーらからのフィードバックなどによって、今後さらに研究と改善を続けるとのことだ。グーグルの専用サイトでは、MSTスケールの活用ガイドが示されている。そこには、スキントーンは主観的なものであり、かつスキントーンは人種とイコールではないといったような留意事項が記載されている。MSTスケールはあくまで肌色のスケール。色の幅を表すものであり、絶対的なカテゴリーではない。MSTスケールが今後より倫理的で公平なAIプロダクト開発につながることに期待したい。

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Text by MAKI NAKATA