「アフリカ」絵文字にみる、ステレオタイプの課題と多様化の動き

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 アイフォーンの絵文字キーボードで、「Africa」と検索すると、アフリカを中心にした地球儀、南アフリカおよび中央アフリカ共和国の旗、そして土と藁葺きの伝統的住居(hut)を表現した絵文字が提案される。ある特定の国・地域・文化に関するステレオタイプを助長するような、「先進国」発の絵文字には少なからず問題がある。しかし、こうした「先進国」発のスタンダードに対して、オルタナティブな絵文字を開発する動きもある。日本由来である絵文字のグローバル化と、新たな多様化の動きとは。

◆日本からグローバル化した絵文字
 絵文字は、英語でもそのまま「emoji」として知られており、世界的に使われているが、オリジナルの絵文字を開発したのは、1999年当時NTTドコモのiモード開発チームに所属していた栗田穣崇(しげたか)だ。彼は、新卒でNTTドコモに入社し、2年後にiモード開発チームに参加した。絵文字は、iモードの必須機能ではなかったため、栗田は空き時間で開発を進めたという。デザインをアウトソースする時間もなく、10日間で絵文字候補をリストアップし、約1ヶ月間で約200個の絵文字を作成した。初期の絵文字デザインは、12×12ドットのピクセル・グリッドという限られたスペースのなかでの表現だ。追加的な機能として提案された絵文字だが、結果的には、iモードメールの全角250文字という限られた文字数制限の問題を解決する重要な機能となった。

 iモードとともに最終的にリリースされたのは白黒ピクセルの176種類の絵文字だ。開発にあたっては漫画などを参考にしつつ、高校生の意見なども取り入れたという。日本から普及した絵文字は2010年に、世界中の文字(アルファベット、記号など)を収録する全世界共通の文字コードの集合であるユニコードに組み込まれたことで世界基準へと進化した。現時点で、ユニコードに登録されている絵文字総数は3521個。2016年には、栗田が開発した176の絵文字がニューヨーク現代美術館(MoMA)に収蔵された。「栗田の絵文字は、デザインが人間の行動を変える力を持っているということを、説得力を持って示すものだ。椅子のデザインが姿勢を決定するように、電子的なコミュニケーションのさまざまな形式のデザインも、発信(Voice)を形作るものだ」とMoMAは解説している。
 
 栗田の絵文字の多くは世界的に通用するものだが、自動車につける初心者マークや郵便局のマークといった、主に日本の文脈でしか通用しないようなものも含まれている。絵文字の世界基準化のプロジェクトは、グーグルのチームが進めたが、2009年に絵文字のユニコード申請を行ったのは、アップルの2人のエンジニア、木田泰夫とピーター・エドバーグであった。現在でも、七夕飾りのような日本の特有文化を表現したような70以上の絵文字が存在する理由は、絵文字のルーツが日本であるからだ。

Text by MAKI NAKATA