個人情報が「新たな石油」になる時代に備える フェイスブック騒動の教訓

Thibault Camus / AP Photo

 大量の個人情報流出に端を発するフェイスブックの信用失墜は、まだまだ収束する気配がない。それどころか一連の騒動をうけて「#DeleteFacebook(フェイスブックを削除せよ)」という動きがあるほどだ。しかし、果たしてユーザはフェイスブックから退会すれば、個人情報の安全を確保できるのだろうか。この騒動の本質とは、ユーザが自覚しづらい危険に常にさらされていることにあるとする指摘がある。

◆ウォズニアック氏は決断した
 USAトゥデイ紙の記事(4月8日付)は、#DeleteFacebookに同調してフェイスブックから退会したアップル共同設立者のスティーブ・ウォズニアック氏の発言を報じている。その発言がテック業界に少なくない影響を与える同氏はフェイスブックの騒動に関して、「ユーザは自分たちの生活の詳細に至るまでフェイスブックに提供している……フェイスブックはユーザから提供された情報から広告収入を得ている」「フェイスブックの利益はすべてユーザ情報にもとづいている。しかし、ユーザはフェイスブックからその利益の見返りを全くもらえない」と同紙に電子メールで答えている。さらに「アップルは良い製品から利益を得るのであって、ユーザからではない」「皆が言うようにフェイスブックに関しては、ユーザが製品なのだ」と同社のビジネスモデルを手厳しく非難している。

 また同氏は4月8日にフェイスブックから退会したのだが、自身のアカウントを無効化する前に個人情報の変更と削除を実行した際、同社が収集している個人情報の範囲の広さに呆気にとられた、とのこと。

◆「新たな石油」の台頭
 ダウ・ジョーンズ社が運営する経済ニュースサイト『マーケットウォッチ』は、件の騒動に関してマイクロソフト社の元最高戦略責任者のマーク・ペン氏のコラム記事を掲載した。同氏は、今回の騒動が気づかせてくれたことは、インターネット・ユーザ各自の嗜好がお金に換えられているという事実である、と述べる。つまり、ユーザは無料アプリや無料サービスを利用するまさにその時に、自分たちの行動がスキャンされて企業の利益になっているのだ。同氏はこうした現状を「データは新しい石油となり、今やあらゆるデジタル活動がお金に換えられている」と表現する。

 さらに同氏は、今後懸念される脅威としてアマゾン・エコーに代表されるスマートスピーカーの台頭を挙げている。ユーザが話しかけることで多岐にわたる要求に応えてくれるスマートスピーカーに関して、同氏はこの製品の真の目的はユーザを助けることではなくユーザにモノを売りつけることにある、と述べている。

◆個人情報採掘への対抗策
 英ガーディアン紙は、イギリスの通信制大学であるオープン大学で教鞭をとるジョン・ノートン氏のコラム記事を掲載した。同氏もまた、インターネット・ユーザは個人情報を差し出す代わりに無料アプリや無料サービスを利用している現状を指摘している。そのうえで、こうした現状に対抗する手段がふたつある、と述べる。

 ひとつめの対抗策は、ユーザのデジタル活動を追跡するツールの動きを明るみに出しブロックすることができるブラウザ・プラグインツールである。そして、もうひとつの対抗策こそ今年の5月からEUで施行されるEU一般データ保護規則(GDPR)だ。同規則は、誰が個人情報を保有しているか、また個人情報保有者がそのデータを何に使っているかについてユーザが速やかに知ることが可能でなければならない、と謳っている。同規則が厳格に適用されれば「ユーザから隠れていた追跡型広告というロケットに大きな穴を穿つことができる」と同氏は語っている。

Text by 吉本 幸記