「リニアvsハイパーループ」米首都圏に適しているのは? 現地メディアが比較

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 先月19日、アメリカで進むリニア計画について、3つのルート案が発表された。日本のリニア鉄道の技術をベースにしたもので、首都ワシントンD.C.とニューヨークの間を1時間で結ぶ。既存鉄道のアムトラックが最短で3時間かかるのと比べて大幅な時間短縮となるが、さらに高速なハイパーループとの競争に直面しているようだ。

◆「未完の技術」ハイパーループ
 首都ワシントンとニューヨークを結ぶ3つのルート案だが、時速約480kmの高速運転を実現するため、いずれも直線に近い形をとり、線路は地下30mに敷設される。これを報じた首都ワシントンのラジオ局WAMUは、「世界最速である日本の超電導磁気浮上技術」を輸入することになると華々しく伝える。

 重要な路線に採用されるリニア技術だが、同区間はテスラ・モーターズなどを経営するイーロン・マスク氏が進める「ハイパーループ」を開通させる計画もある。真空チューブの中を時速約1200kmで通過する次世代交通システムで、実現すれば同じ区間をリニアの半分の30分で結ぶ。すでにメリーランド州はチューブの試掘を許可していることから、ビジネス・インサイダー誌では両計画が政策面・資金面でライバル関係になると見ているようだ。同誌ではリニアがすでに実証済みの技術であることに触れ、リニア有利の立場を取っている。ハイパーループには技術的課題が多く、実現には15年以上かかる可能性も出ているとしている。

 ハイパーループの問題点を指摘するのは、ボルチモア・ブリュー誌(11月13日)も同じだ。一例として、「当初案でマスク氏は、飛行機の離陸時より大きな力が乗客にかかるようなカーブ径を提案していた。乗客は文字どおり吐くだろう」と伝える。一方、リニアにも既存の軌道を走行できないなど欠点があるため、こと今回の区間については両技術とも適さないのではとの疑問も呈する。ただし技術面については「ハイパーループと異なり、リニアは堅実な技術」とするなど、一定の評価を与えているようだ。

◆リニアはコストが課題か
 一方、資金面ではリニアにも不安が残る。WAMUによると、リニアは当初50%ほどの区間をトンネル化する予定であった。しかし環境を考慮した結果、70%近くが地中に敷設されることになった。米経済誌AIER(10月30日)はアメリカを最もトンネル掘削コストの高い国家の一つと分析している。今回のリニアは「当然、現在の値札(現在の見通し)では、マイル単価でこれまで建設されたどの路線よりも高価になる可能性がある」と指摘する。

 フィナンシャル・タイムズ紙では建設費の高さに加え、電力の消費量にも目を向ける。新幹線の4〜5倍の量を消費することから、日本国内の計画にも批判が出ていると紹介する。

 高コストが災いしてか、すでにアメリカ国内で廃案になったリニア計画も複数出ているようだ。都市情報誌スマートシティーズ・ダイブは、オーランド、南カリフォルニア、アトランタなどで、計画が破棄または中断された例を多く挙げる。今回のワシントンD.C.とニューヨーク間の計画については、高コストのリニアよりも、マスク氏自身の所有するボーリング社が資金力に物を言わせて有利に運ぶのではないかと見ているようだ。

◆沿線都市で期待高まる
 経路上にあるメリーランド州ボルチモアの地方紙ボルチモア・サン(11月13日)は、リニアとハイパーループの双方に大きく期待する。この地域では路面電車の新設を計画しているが、26kmほどの距離に56億ドル(約6300億円)もの費用がかかる割には輸送力に乏しいなど、問題があった。運営母体の経済状況も芳しくなく、路面電車は「不振の続くメトロレール社の慢性的なサービス中断に対してバンドエイドほどの効果しかない」と嘆く。同地域は今回のリニアとハイパーループ計画で一躍脚光を集めることになり、「いまやメリーランドは、輸送の未来を切り開く役割を果たす可能性がある」と期待を寄せる。

 首都やニューヨークだけでなく、沿線の地元もリニアには期待しているようだ。極めて重要な区間だが、先に完成に漕ぎ着けるのはどちらだろうか。

Text by 青葉やまと