中国が動画のストリーミング配信を規制 続々とライブ配信されるコンテンツに悪戦苦闘

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著:Wanning Sunシドニー工科大学 Professor of Chinese Media and Cultural Studies)

動画のストリーミング再生が普及し、中国政府によるメディア統制の限界が試されている。先日、中国政府が「サイバースペースの健全化」を目的としたある規制を発布し、中国の三大オンラインプラットフォームがその対象となっている。動画のライブストリーミングを主とするユーザー生成コンテンツが、新たに取り締まりの対象とされたのである。

規制命令は中国国家新聞出版広電総局 (SAPPRFT) が6月に発布したものだ。これによりソーシャルメディアプラットフォームの新浪微博 (Sina Weibo)、動画配信プラットフォームの鳳凰 (Ifeng)、AcFunで配信される動画に規制がかけられた。

中国政府はこれまでにもオンラインプラットフォームにおける統制力を獲得しようと手を打ってきた。例えば中国の大手動画配信プラットフォーム楽視 (LETV) は、同社製テレビの購入者のみ利用可能な動画配信アプリのサービスを2014年に終了したが、これはSAPPRFTの指示によるものと報じられている。

ニュース、エンタメにおけるイデオロギーの統制を図る中国政府にとっては、ソーシャルメディアが普及した今、ライブストリーミングが新たな課題となっている。またライブストリーミングで生じる問題は予測不能であるため、政府の対策は後手に回らざるを得ない。

◆コメント機能の統制
中国ではライブストリーミング配信のためのプラットフォームが次々と出現している。同国のソーシャルメディアプラットフォーム最大手である新浪微博は、2016年に一直播 (Yi Zhibo) という名のアプリを開発し、ゲーム、オーディション番組、ニュース番組をライブストリーミングできるサービスを開始した。

今やインターネットセレブや一般市民までもが、一直播を始めとする数々のプラットフォームを利用し動画を生配信するようになった。中国の動画配信者にはこの現象を「21世紀のゴールドラッシュ」と称する人もいる。

動画のライブ配信メディアは爆発的に広まり、誰もが利用できるようになった。これによりライブストリーミングで発信されるコンテンツの検閲が技術的に困難となっていることは明らかだ。中でも特にコメント機能の検閲は難題である。

中国では「A站」と呼ばれているAcFun、そして「B站」と略される嗶哩嗶哩 (Bilibili) が、二大動画配信プラットフォームとして人気を集めている。どちらもアニメ、コミック、ゲームに特化した動画サイトで、主なユーザー層は20代以下の若者だ。

両サイトともその魅力は「弾幕」にある。弾幕とはスクリーン全体にリアルタイムでコメント (弾) を打ち込むことで、ユーザー同士が会話できる機能(編注:ニコニコ動画のコメント機能のようなもの)だ。

弾幕のようなコメントは、規制をかける前に発信され、一瞬で消えてしまう。これが検閲する側にとって新たな悩みの種となっているのは想像に難くない。

◆ニュースの統制
ライブストリーミングに対する規制はある意味単純で、新たなテクノロジーの出現に対し、規制当局が新たなルールを設け、権力で抑え込むだけのことだ。しかしその他のメディアに対する規制は、慣例に従おうとしないメディア機関の統制を目的としているようだ。

鳳凰は2016年末に動画のライブストリーミングプラットフォームzhibo.ifeng.comを立ち上げた直後、そこでアメリカ大統領選挙の様子を一部生配信したことをきっかけとし、中国規制当局による規制の対象となった。他国の民主的プロセスが自由に報道されすぎていると中国政府の懸念を生んだためだ。

鳳凰は今日最大声 (The Loudest Voice Today) を始めとする少なくとも3番組を終了した。いずれも鳳凰が独自に制作した番組で、アンカーと司会者がニュースや時事を紹介するというものだ。出演者は幅広い層からの支持を得ており、政府の立場に相反する、挑戦的な意見や価値観を口にする傾向があった。

5月には中国で新たに設置された統制機関、中国サイバー管理局 (CAC) が第1号となる法令を発布した。この規定により6月以降は市、州、国レベルの全ポータルサイトは、国公認の報道機関が制作したニュースのみを掲載するよう義務付けられた。

現在ではすべてのウェブサイトで記事の著者、編集者、情報ソースを明記しなければならない。

このような法令が発布されたことから、新たなメディアプラットフォームには社会的、政治的発言力を認めまいとする政府の明らかな意図が見て取れる。

さらにオンラインメディアに対する一連の規制は、投資家に向けた中国政府の意思表明であるとする見方もある。オンラインのエンタメコンテンツは利益に直結するが、この投資機会には政治的リスクと責任が伴うと投資家をけん制しているのだ。

また微信 (WeChat) などソーシャルメディアプラットフォームを扱う企業側はというと、センシティブなワードやトピックをフィルターにかける技術の開発を迫られている。

◆倫理観の統制
ライブストリーミングは政治的にセンシティブな発言やコンテンツの増加を招いた。しかしそればかりでなく違法動画や不適切動画の拡散もまた、ライブストリーミングにより助長されていると言っていいだろう。

中国文化部は「低俗」、「媚俗」、「庸俗」の「三俗 (san su)」に当てはまるものを、サイバースペースを汚染する違法または不適切なコンテンツとみなしている。

2016年後半に中国中央電視台 (CCTV) がある話題を報じた。四川省大嶺山鎮の人里離れた田舎にある貧村を訪れた数名が、慈善家を装っていたという内容の報道だ。CCTVによると、彼らは困窮した村人たちに札束を寄付し、その様子を生配信したが、配信が終了すると現金を回収してしまったという。

動画のストリーミング配信に対する今回の規制は、2017年開催の中国共産党第19回代表会議 (同党が5年に1度開催する重要な政治イベント) に備え、サイバースペースを「健全化」する目的があると思われる。しかしその後もこのような規制がさらに強化されるであろうことは誰の目にも明らかだ。

しかし結局のところ、一連の規制は反射的に同じことを繰り返しているだけであり、ほとんど効果を上げていない。どの国の規制機関にも言えることだが、中国の規制当局は今後もテクノロジーの進化に追いつくために苦労を強いられるだろう。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by t.sato via Conyac

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Text by The Conversation