英国のシェフら、養殖サーモンに「ノー!」 メニューから外した理由とは

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◆養殖場でのサーモンの死亡数、1500万匹に倍増
 かつては特別なご馳走とされていたサーモンは、今や晩餐会から休日のごちそうまで、さまざまな食のシーンでどこにでもある欠かせない存在だ。特にスコットランド産サーモンは世界的に有名で、スコットランドの食品輸出全体の40%を占め、イギリスで最も価値のある食品輸出品となっている。

 その養殖サーモンを飲食店のメニューから外すキャンペーンへの参加を呼びかけ、150以上の飲食店から支持を得ている慈善団体「ワイルドフィッシュ」の代表マット・パーマー氏によると、イギリスにおける野生のアトランティックサーモンの生息数は1970年代から大幅に減少している。この減少の一因を商業的サーモンの養殖にあると指摘する。(ガーディアン紙)

 サーモンの養殖場では寄生虫であるウミジラミが増殖しており、これが野生のサーモンやイワナに感染し、時には致命的な結果をもたらすことがある、と一部専門家は指摘する。

 スコットランドの水産物検疫所が最近公表した報告書によると、2022年にスコットランドの養殖場で死亡したサーモンの数は前年より倍増し、1500万匹に達した。

 スコットランドの養殖サーモン業界会員団体「サーモン・スコットランド」は、ウミジラミが養殖と天然サーモンの両方に影響を及ぼしたと述べ、天然サーモンの減少には、水質、気候危機、生息地の喪失などほかの要因があると主張する。また、スコットランドのサーモンの飼育密度は世界で最も低い水準に維持しているとした。さらに、2021年に海水養殖場の95%が抗生物質をまったく使用していないことにも言及した。(ガーディアン紙)

 イギリスの市民団体「海洋保護委員会(MCS)」、国際非営利団体「海洋管理協議会(MSC)」は、包括的なボイコットを提唱しているわけではない。MCSは、エコ認定システムで、水産養殖管理協議会(ASC)認定のアトランティックサーモンを「グリーン」の安全と評価。一方、その他の大半の養殖サーモンは「アンバー」、つまり改善が必要であると評価している。MCSの厳格なエコ認定マークは、大半が北米産のサーモンを対象にしている。

Text by 中沢弘子