昆虫種の3分の1が絶滅の危機 農薬削減を迫られるEU

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 欧州連合(EU)は、環境団体から昆虫を保護するための抜本的な対応を求められている。団体が6月9日に発表した報告書によると、世界中に生息する昆虫種の40%以上が農薬の使用と工業型農業の推進により減少している。

 国際環境NGO「地球の友ヨーロッパ(FoEE)」とドイツ緑の党と密接な関係にあるシンクタンク、ハインリッヒ・ベル財団は、EUが実施している生物多様性の保護と有機農業の開発に向けた戦略は不十分だと述べている。昆虫種の3分の1が絶滅の危機に瀕しているからだ。

 FoEEのミュート・シンプフ氏は、「証拠は明らかだ。農薬の使用により世界の昆虫の個体数が減少し、生態系が破壊されているほか、食料生産が脅かされている」と述べている。

 FoEEでは、ヨーロッパに生息するハチやチョウの少なくとも1割が絶滅の危機に瀕しており、送粉者であるこれらの種の減少により食料生産への影響が懸念されるとしている。欧州議会が発表した情報によると、EU全体の作物種の約84%、野生花の78%は何らかの形で動物による受粉を頼りとしている。

 欧州委員会は先月、温室効果ガスの排出量を今世紀半ばまでにゼロに削減する目標に向けた取り組みの一環として、2030年までに化学農薬の使用を半減させるとした。また、加盟27ヶ国の農地の25%以上を有機農業に割り当てる意向も表明している(現在は8%)。同委員会ではさらに、今後10年間で少なくとも30億本の木を植えるとしている。

 ハインリッヒ・ベル財団のバーバラ・ウンミュシッグ代表理事は、昆虫の個体数減少は非常に深刻な問題であり、EUによる現在の計画では不十分だと述べている。「昆虫と気候にやさしい農業」の推進を確実なものとするためには、 EUの共通農業政策(CAP)を刷新する必要があるとも話している。

 FoEEと同財団では、「2030年までに農薬の使用を80%減」と大幅に削減することを定めた新法の制定に向けた運動も開始している。

 ウンミュシッグ氏は「CAPの補助金の8割を受け取っているのは、ヨーロッパの全農業生産者の2割にすぎない。この現状はもはや正当化できない」としたうえで、「ごく少数の大規模農家が享受している広域補助金を、小規模ながらも環境・社会面で存続可能な農家の支援に振り向ける必要がある」と話している。

 両団体が発表した情報によると、工業型農業の発展に伴い、世界で使用されている農薬の量はこの70年で5倍に増えたという。農薬の使用を削減するためには、EU農業予算の少なくとも半分を環境目標達成のために割り当てるほか、農地の生態系の保全につながる技術を導入しようとする農家を支援すべきだと両団体は提言している。

 EUでは、農薬に関してはきわめて厳格な規則を定めているとコメントしている。欧州委員会は今年初め、健康および環境への懸念から、チアクロプリドと呼ばれるネオニコチノイド系農薬の承認を更新しない決定を下した。2018年には、科学的なエビデンスをもとにリスクが明らかにされたことを受けて、屋外で栽培されるすべての作物に対し汎用ネオニコチノイド系農薬3種を使用することを禁じた。

By SAMUEL PETREQUIN Associated Press
Translated by Conyac

Text by AP