作物特許に対抗 世界で広がる種子の「オープンソース化」

著:Ensia 本稿は、世界の環境問題への取り組みを紹介するオンライン・マガジンEnsia.com掲載された、レイチェル・サーナンスキー氏の記事を、コンテンツ共有の合意のもとにグローバル・ボイスに転載している。

 フランク・モートンさんは1980年代からアメリカでレタスの品種改良をしている。彼の会社は、114種類のレタスの種子を提供しているが、中でもアウトレッジャス(Outredgeous)と呼ばれる品種は、 2015年にNASAの宇宙飛行士が宇宙で初めて育て試食したレタスだ。これまでの約20年間、モートンさんの仕事を制限するものがあったとすれば、それは自身の想像力と手に入るレタスの品種数だけだった。

アウトレッジャス(Outredgeous)という名のレッドロメインレタス。国際宇宙ステーションの宇宙飛行士がステーション内の植物栽培装置「Veggie」で育て試食した。写真提供:NASA

 ところが2000年初め、特許が取得されているレタスが増えていることにモートンさんは気づき始めた。特許取得済みのレタスを品種改良に使うことはできない。特許は、単にレタスの種類だけではなく、耐病性、赤や緑といった特定の色合い、カールした葉の形状といった具体的な形質にまで取得されていた。その後も年々そのような特許は増え続け、トウモロコシからニンジンまで、その領域は侵され広がっている。この傾向は、育種家、環境保護主義者、食料安全保障の専門家にとって、食料生産の未来への懸念材料となっている。

 モートンさんは、何千年も続いてきた品種改良の伝統に、自らを捧げると決意しており、いまもレタスの品種改良を続けている。しかし、規制が増えるほど手間が増えて、作業に時間がかかるようになってしまった。

 「私の現状を例えるなら、特許という岩が置かれた川の中に浮かんでいるような状況です。私たちは浮かんでいることしかできないのです。しかしその岩は品種改良の伝統を壊すことでしょう」とモートンさんは言う。「レタスの特許範囲は広過ぎると思います。もし[法廷で]戦うようなことになれば、もう誰も新種のレタスを作り出すことができないと思います。とにかくあらゆるレタスの形質が特許で押さえられているのですから」モートンさんは、特許侵害にならないよう細心の注意を払いながら、使える育種材料で望ましい形質を目指して品種改良をしている。モートンさんはまたアメリカや世界で拡大している運動、種子を「オープンソース化」した品種改良を推進する運動にも参加している。

 オープンソースという言葉が、植物の品種改良というよりテクノロジー業界の用語だと思う人がいても無理もない。オープンソース・シード・イニシアティブ(OSSI)は、「ライセンスで守られたソフトウエアの代わりに、誰でも使えて(ライセンスフリー)変更もできる(オープン)なソフトウエアを提供する運動、フリー・オープンソース・ソフトウエア運動」からヒントを得て立ち上げられた。その目的は、知的財産権で保護されない植物種と遺伝子を確保し、育種家が永久的に使用できるよう保証することである。OSSIと呼ばれるこの取り組みの一環として、アメリカの育種家は、自分たちが作った新しい種子は今後、誰でも品種改良に使用できるという誓約を立てることができる。

 この誓約は、その種子を使ってビジネスをしたり、販売することを制限するものではない。オープンソースの種子を購入した農業従事者は、他の育種材料と交配させて独自の品種を作ることもできるし、種子を次の時期まで保管しておくこともできる。どちらの行為も、多くの作物特許では禁じられていることだ。2014年のイニシアチブ立ち上げ以降、多く育種家や種苗会社がOSSIに誓約を立てている。

Text by Global Voices