原発×再稼働 海外の反応まとめ

 日本政府の原発再稼働への大きな一歩をめぐって、国内外で議論が巻き起こっている。

 近年、日本政府は、原子力規制委員会が安全性を確認した原発について、順次再起動へともっていく方針を見せている。石炭等に比べ、少ないコストでエネルギーを生み出すことのできる原子力は、日本政府にとっても経済成長を遂げるうえで、避けられない選択肢として見ているようだ。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、再稼働へ近づいた経緯を認めながらも、世論が政府の決定に懐疑的であることを報じている。

 また、世界一厳しいとされる日本の原発の安全性を判断する基準は、かつての日本の原発安全神話を呼び覚まし、原発の持つ本来の危険性を覆い隠しかねないと、原発再稼働を危惧する声も多数ある。

 一方で、原発再稼働の裏側では、新たなエネルギーとして米シェールガスが期待されており、海外メディアは、この動きの影響に注目している。

 以下、昨今の主要な海外の反応をまとめる。

1)原発再稼働へ大きな一歩 政府の圧力、世論無視と米紙批判

 原子力規制委員会が、九州電力川内原発の二つの原子炉に関しての安全対策を承認した。ニューヨーク・タイムズ紙は、再稼働へ近づいたとしながらも、世論は懐疑的であると報じる。

 ブルームバーグは、経団連は輸入に頼らない安定した原子力への回帰を支持するが、国内の世論調査では、原発反対が多数を占めるとし、7月の朝日新聞の調査では、回答者の59%が川内原発再稼働に反対だったと説明した。

 ニューヨーク・タイムズ紙は、今回の規制委の承認は、政府の厳しい政治的圧力によるものだと指摘する。同紙はさらに、パブリックコメントで多くの懸念が示されたにも関わらず、規制委が7月の調査結果を大きく修正することなしに、今回の承認を出してしまったとし、政府の関与を批判する声を紹介している。

(懐疑的な国民を納得させる仕事を担う小渕経産相(当時)は、「地元自治体の理解」を得る大切さを強調。「心配だと言うのは当然」とし、「中央政府は、これらの感情に十分な説明をする必要がある」と述べている(AFP)。)
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2)原発安全神話の復活か? 「絶対安全」再稼働目指す日本を海外紙が懸念

 川内原発1、2号機の事実上の合格証である「審査書案」が、近々了承される見通しとなったことを受け、フィナンシャル・タイムズ紙は、日本の原発安全神話が戻ってきたと述べた。そして、より厳しい安全基準の導入で、再稼働を目指そうとする政府の姿勢に、疑問を呈している。

 原発そのものの安全性にしぼった議論は、日本が現在大量に使用する化石燃料等による、他の考慮すべき相対的危険を省いてしまうことになる。また、原発推進派が勝利した場合でも、新たな安全神話に基づいて再稼働されたのでは、福島以前に戻ってしまう可能性もあると、同紙は指摘している。

(過去を振り返ると、1960年代に日本のリーダーたちは、資源も乏しく、原爆の記憶が生々しく残った日本で原子力発電を推進するため、原発の「安全神話」が語られてきた経緯がある。長らく見直されなかった日本の原発の安全基準を見直し、今後の日本のエネルギー政策におけるベストな選択肢を検討してほしいものだ。)
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3)「世界一厳しい基準」で再稼働へ 第一号は鹿児島・川内原発か?海外も注目

 菅官房長官は原子力規制委の決定に関して、「世界一厳しい基準に基づいて原子力規制委員会でしっかりと審査してほしい。地元自治体の取り組みと連携しながら政府として判断する」と語ったという。

 ブルームバーグ・ビジネスウィーク誌は、日本は原発推進の是非に関して、世界で最も意見が割れている国であるとして、東京新聞が今月実施した世論調査結果を伝えている。

 また、東日本大震災から3年目の3月11日、東京電力の原子力改革監視委員会のクライン委員長(元米原子力規制委員会委員長)が、福島第一原発内の汚染水処理には長期的な計画が欠けていると述べたとワシントン・ポスト紙は報じている。

(国内原発の再稼働をめぐって、海外メディアが様々な声を挙げているという記事。海外メディアの多くは、記事の中で、日本政府の原発再稼働への動きが、国民に理解されていない現状を大きく指摘している。)
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4)日本の原発、再稼働できるのは3分の1? 海外メディアが課題を分析

 再稼働に際し地元を説得するためには、ロイターの表現によれば「地震学的、経済的、物流的、政治的なハードル」をクリアしなければならず、そのために安全基準は従来より厳しくなった。その結果、ロイターの分析では、福島第一原発以外の48原子炉のうち、少なければ3分の1、多くて3分の2しか、再稼働は不可能だろうというのだ。

 また朝日新聞の調査では、16原発のうち10について、半径30kmを完全にカバーする避難計画がないことがわかった。

(ロイターによると現在、8電力会社が再稼働に向けて、10発電所にある17炉の安全審査を原子力規制庁に要求しており、鹿児島県・川内原発の2炉を優先審査すると表明したと報じている。ある専門家は、政府による決定を、再稼働を支持する地元自治体への利益誘導と政治活動の地理的な遠さを背景にした狡猾な理由のもとなされていると批判している。)
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5)日本、米シェールガス輸入へ 原発再稼働議論にも影響か? 海外メディア注目

 アメリカのエネルギー省は、三菱商事や三井物産などが参画する液化天然ガス(LNG)の対日輸出プロジェクト「キャメロン」(ルイジアナ州)ほかの輸出許可を最終承認した。2018年に商業生産開始予定で、日本の米国産シェールガスの輸入が本格的に始まることになる。

 環境・エネルギー政策情報サイト『E&E』は、日本で原子炉再稼働の声が高まったら、いつまでLNG需要があるだろうか、と述べる。日本の原発が再稼働すれば、当然、LNGへの需要は低下するだろうと見ている。

(『E&E』によれば本年3月に開催されたエネルギー・コンサルティング会社IHSセラのイベントで、日本のある政府高官が、国内にある原子炉の3分の1にあたる17基を2年以内に再稼働させ、高価なLNG等の輸入は減らしたい、と語ったという。)
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Text by NewSphere 編集部