本の話

© Yoshinobu Ayame

 彼らは、リーマンショックを経てインディペンデントなやり方に目覚めた人たちがアメリカに登場したように、震災をきっかけに都会での暮らしや消費主義に疑問を持って、別の新たなやり方を模索しているようだった。震災や家族の不幸を契機に地元に「Uターン」したり、縁のある、または縁ができた場所に「Iターン」して根を張って、新たなコミュニティづくりに従事している人たちが日本全国にいたのだった。

 「日本は消費カルチャーだから『ヒップな生活革命』的な現象は起きにくい」はピント外れもいいところだった。私がアメリカの大都市の片隅で発見したカウンターカルチャーのムーブメントと同じではなくとも、それと似た価値観を共有する人たちが日本でも、「それまでの生き方」から離れ、新たな場所を作っていた。「革命」はとっくに始まっていたのだった。

 イベントに来てくれた人に「自分の街にも来てください」と声をかけられ、場所探しをお願いして、新規のイベントが開催できる、などということもあった。東京の外の行きたい場所を考え、その土地でイベントをホストしてくれる店や人を見つける、と同時に行く先々で取材をする――この行為を繰り返すことが、ひとつのライフワークになった。

 本や書店を取り巻く状況はいつも変容しているように見える。たった5年前の話だけれど、私が本屋を回り始めた2014年頃は、まだ地方でも比較的大きな書店に活気があった。それがここ何年かで変わり始めた。文化度が高いながら、同時に多くのジャンルの本や本以外の商品を幅広く置くタイプの書店は、だんだん元気を失い始めた。今年は、東京の外で初めて私のイベントを企画してくれたスタンダードブックストアが、もとのスペースを失って閉店した。名物オーナーの中川和彦さんは、「小さな立呑みと本の店をやりたい」と話していた。

 実際、本屋というものは小さくなる方向にあるのかもしれない。地方都市をずっとまわるなかで、また最近では、運営コストの高い東京でも、宝石のように小さな本屋の存在を発見することが増えた。本という薄利の商品の売上で家賃を捻出するために、誰もが買うような幅広い品揃えをするよりも、小さな床面積の店にターゲットを絞るほうが確実だという認識が広がっているのかもしれない。そういう小さな店が、床面積の狭さにもかかわらず、元気なコミュニティのハブとして機能している場合もある。

 たとえば、沖縄でのイベントをいつもホストしてくれる宮里小書店は、那覇の栄町市場の片隅にある小さな古書店である。名前に「小」と入っているくらいだから、人間が4人いたら窮屈、というほど小さい。宮里千里・綾羽親子が運営する小書店ではだから、イベントを店の外の飲食店で開催する。が、彼らのイベントは外からゲストを呼ぶだけではない。必ず、地元のクリエイターによる音楽の演奏や、彼らとの対談の場が設けられている。ただ、外から著者がやって来て本を売る、一方通行のイベントではない分、双方向にエネルギーが交差して、忌憚のないコミュニケーションが可能だし、赤ちゃんから老人まで世代を超えて人が集まる。

 最近は、書店ではないライフスタイル系のショップからも声がかかるようにもなった。普段はファッションやライフスタイル雑貨を売っている店が、本のイベントをホストしてくれるのだ。これまでは、石川県加賀市のPHAETON(フェートン)や、鹿児島のOWLなどでイベントをやらせてもらったが、どちらも満員御礼だったし、本もたくさん売れた。凄まじい文化的求心力を持つ「店」という場所があるのだということを思い知った。書店でのイベントとの最大の違いは、来場者の共通項が衣類の趣味やライフスタイルであるということだ。一貫した選択眼を持って商品のキュレーションをしている人たちが、自分たちの顧客へのメッセージとしてイベントを開催する。著者からすれば、ここにこうしてやって来る、普段は本のイベントに参加しないタイプの人たちと出会える。店にとって、自分たちの店の哲学を共有する著者を招いて本のイベントを開催することは、そこで行なおうとする世界観の表現のひとつでもあり、本を通じて顧客と交流する場を設けることでもあった。こうして彼らのモノ選びのセンスがその土地の客たちに圧倒的な信頼を得ているから、私の本が、書店の外の世界にも旅することができるのだ。

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