アメリカが変わるか 「ビルド・バック・ベター」法案が上院投票へ

下院での可決後、法案に扮し「上院へ」と書かれたサッシュを着けた人物(11月19日)|Jacquelyn Martin / AP Photo

◆チャイルドケア無料化で経済に還元
 ビルド・バック・ベター法案の中でも注目したいのは、チャイルドケア費用が現在と比べ物にならないほど安価になることである。現在のアメリカでは、低所得者層向けに無料プリスクール(キンダーガーテン以前)や、小学校以上ならば給食無料化プログラムなどが実施されているが、一定以上の収入がある場合、それらのプログラムの利用規定に該当せず、利用料金を満額払う必要がある。夫婦二人でも、シングルインカムで暮らすことは困難な場合も多く、低賃金で働いている場合、共働きでもチャイルドケアに月額一人あたり700~1000ドル(約8000~1万1000円)以上支払えば収入の半分以上を占めることになり、貧困のループから出られなくなるという可能性が高い。これは低所得者層だけでなく、中流家庭にとっても大きな負担であり、よって子供を預けられないため働きたくても働けなかったり、幼児期の子供に必要な早期教育を与えられないなどの結果に繋がってしまう。

 ビルド・バック・ベター法案では、チャイルドケアに政府からの資金を投入することにより、親の負担を軽減する。ホワイトハウスのウェブサイトによると、まず今年の7月から17歳以下の子供に1人あたり250~300ドル(年齢による)支給され、子供の貧困を半減させたという「チャイルド・タックス・クレジット」(アメリカ版児童手当)を今後も継続する案が盛り込まれている。

 また、チャイルドケア施設では、利用料金が保護者の年収の7%以下に留められる。つまり、たとえば年収5万ドルの家庭では、チャイルドケア料金が年間3500ドル(月に約292ドル)に抑えられることになる。また通常は3~5歳まで通うプリスクールの利用料も無料化される。チャイルドケアにおける保護者の負担が減れば、当然家庭内で余ったお金は貯蓄や、食品や衣料など必要な物の購入に回されることになり、経済の活性化にもつながるというわけである。
 
 この法案で、家庭にとって経済的な助けになるのはそれだけではない。医療保険制度改革法(ACA、オバマケア)の補助金も増加するため、現在高額な健康保険費用を払っている場合はそれが軽減され、また介護が必要なシニアのホームケア補助なども拡充される。

 ビルド・バック・ベター法案は、アメリカでは非常に革命的ではあるが、裏を返すと、アメリカではこれまで(そして現在も)、国民がこんなに基本的な権利さえも享受できていなかったということだ。もちろん、日本や欧州各国など、他国ではすでにこれ以上に充実したプログラムが、国民の権利として当然のように実施されているにもかかわらず、アメリカではこれまで福利厚生が国民の当然の権利ではなく、特権のように扱われてきた。

 アメリカが新たな一歩を踏み出せるか否かは、年末の上院での審議と、2022年の中間選挙にかかっている。中間選挙で民主党が過半数以上を獲得できれば、アメリカは今後もっと国民に優しい国になれるだろう。

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Text by 川島 実佳