米大統領選で注目された、ステイシー・エイブラムスの選挙戦略

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 2020年11月3日に投票が行われた米国大統領選。トランプ大統領は選挙の不正を訴え続けているが、12月14日には選挙人団による投票も完了し、1月20日に就任する米国次期大統領は、民主党のジョー・バイデン前副大統領に決まった。この民主党の勝利に大きく貢献した人物が、ジョージア州を民主党勝利に導いたステイシー・エイブラムスだ。彼女は、選挙妨害(voter suppression)の課題を訴え、黒人や若者の有権者登録を促進してきた。1月5日に、ジョージア州では民主党が上院議員の過半数を獲得できるかがかかっている、上院議員2名の決選投票を控えている。今回の大統領選挙で改めて注目された、エイブラムスの活動と選挙戦略とは。

◆ジョージア州知事選勝利を逃したエイブラムス
 ステイシー・エイブラムスは、ウィスコンシン州に生まれ、後に家族の都合でジョージア州に転居。弁護士としてのキャリアを積んだあと、下院議員に立候補し、2007〜17年の11年間、ジョージア州代表を務めた。エイブラムスの名が全国的に広まったきっかけとなったのが、彼女が立候補した2018年のジョージア州知事選だ。米国の二大政党の正式候補として、黒人女性が選ばれたのは史上初のことだった。選挙の結果、ブライアン・ケンプが勝利したが、この選挙が公平性に欠けていたとして彼女は敗北を認めず、メディアや国民から選挙の公平性の欠如の課題について注目を集めた。

 ケンプは選挙当時、選挙を管理する役割を担う州務長官(Georgia secretary of state)の立場のまま、知事選の立候補者として選挙に臨み、利益相反が指摘されていた。エイブラムスは、ケンプが州務長官の立場を利用して、67万人の有権者リストからの除外や、5.3万人の選挙登録保留といった選挙妨害を行ったと主張した。

 この「不公平」な選挙をきっかけに、エイブラムスは「フェア・ファイト(Fair Fight)」という組織を立ち上げ、選挙妨害をなくすための取り組みを始めた。フェア・ファイトは、ジョージア州を中心に国民の参政を促し、選挙や選挙権についての教育を行うことで、公平な選挙を促進する団体で、選挙妨害に関する訴訟も起こす。

 公平な選挙の実現のためには、有権者登録、投票、集計のすべてのステップにおいて、選挙妨害の解決が必要だが、とくに重要なのが有権者登録である。米国では基本的に18歳になると選挙権が与えられるが、日本の戸籍のようなものはないため、政府が自動的に有権者を把握するしくみはなく、多くの場合事前に、国民が現在の居住地にて有権者登録を行う必要がある。黒人を差別し、白人から隔離させ、彼らの政治経済活動への参加を禁止・制限したジム・クロウ法の歴史的背景を持つ南部の州では、とくに黒人の有権者の割合が人口比に対して低いという課題がある。

 また、2013年の最高裁判決(「シェルビー郡対ホルダー」)により、州は司法省を通すことなく州独自の法律や規則を定め、期日前投票の制限や、投票所数の削減、本人確認書類に関する規則の厳格化をできるようになった。こうした規則は、とくに貧しい地域に住む黒人に直接的影響する。たとえば、人口に対しての投票所の数が著しく少ない場所では、有権者は長時間並んで待機する必要がある(米ビジネス・インサイダー)。また、2016年時点で米国では、犯罪を犯したため公民権を失った国民が600万人いるとのデータが報告されているが、そのうちの黒人比率が不均衡に高く、黒人(成人)の7.4%を占める。つまり13人に1人の黒人有権者がその権利を失っている。さらに、フロリダ州やケンタッキー州など、いくつかの南部の州ではこの割合が20%を上回る。

Text by MAKI NAKATA