「強権指導者」路線をとるトランプ氏 大統領選控え高まる懸念

AP Photo / Patrick Semansky

 先週、首都ワシントンの大通りには抗議デモ参加者の進行を食い止めようと、多くの警官や州兵が配備された。上空を旋回していたヘリコプターはしばし高度を下げ、群衆の頭上で大きな音を立てた。トランプ大統領は、通りを「支配下に置く」ためにさらなる強権を発動すると警告した。

 アメリカ国民の怒りを買った警察による残忍な行為に対する抗議行動を鎮めようと、大統領は発言と行動を通して、長らく称賛してきた「強権指導者」になろうとしている。それを実行するにあたり、過去にほとんど前例のない方法で大統領権限を拡大し、国防総省の忠誠度を試している。

 大統領が行動を起こしたことで、新旧の国防長官、そして一部の共和党議員からあからさまなしっぺ返しを受けることになった。彼らの懸念は、過去のトランプ氏の行動にとどまらず、選挙が行われる今年、とりわけ大統領に対する逆風が強くなりそうなときにどこまで強権を発動するかが中心となっている。

 共和党穏健派のリーサ・マーカウスキー上院議員(アラスカ州)は、「心の中に抱えている不安に正直に向き合い、自分たちの強い信念を口に出せるところまできたのかもしれない」と述べている。11月の大統領選でトランプ氏を支持し続けるかはわからないという。
 
 民主党のジョー・バイデン氏と現職大統領が争う今回の選挙は、4年の任期期間中、方向転換を図るかトランプ氏の手法を推し進めるかを選択する最終的な転換点となる。

 公衆衛生、経済、人権の危機にアメリカが直面しているなか、この2人をめぐる次期大統領の選択は厳しさを増している。トランプ大統領は、不確実性が増す時代において強権を発揮しようと、「法と秩序」を司る大統領像を積極的に取り入れようとしている。一方バイデン氏は、今回の大統領選挙は道徳が試されるテストであり、アメリカの「魂をかけた争い」と呼んでいる。

 トランプ氏は2016年に有権者に向け同じようなアピールを行い、白人層を中心に不満を持つ人々からの支持を獲得した。最高司令官としての厳しい発言を行動で裏付けるために、連邦政府と軍隊を望み通りに動かす並外れた権力を保持している。

 ミネアポリスでジョージ・フロイド氏が警官に押さえつけられて死亡した事件の後、抗議運動が広がるなかで権力を行使しようとするトランプ氏の意思が明らかになった。各地でのデモ活動は概ね平和的に行われていたが、暴力事件が勃発したことで事態が紛糾した。

 大統領は6月1日にホワイトハウスの庭園で行った演説で、地元警察や州兵が抗議行動を抑えられない場合には現役の連邦軍を州に派遣すると警告した。警官たちがホワイトハウスの外で発煙筒や催涙ペイント弾を使って群集を積極的に蹴散らしたため、大統領は近くの教会に歩いて行き、聖書を手にポーズを取ることができた。これに対してはマーク・エスパー国防長官のほか、戦闘服に身を包んだ統合参謀本部会議長マーク・ミリー氏が大統領に異を唱えた。

 驚くべき光景がライブ放送で繰り広げられ、その様子は独裁国家で行われている取り締まりと比較された。トランプ大統領は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領やフィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ大統領など、強大な権力を有する指導者を長らく賞賛してきた。

 国防総省で勤務したこともあるコリ・シェイク氏によると、大統領の過去の発言や行動を考えれば、軍隊を利用して抗議デモ参加者を取り締まる脅しはとくに驚くことではないという。

 現在は保守系シンクタンクのアメリカンエンタープライズ研究所に勤めるシェイク氏は、「連邦軍は、大統領が民主主義的な規範を試した上で破壊させ、組織の制度的な独立性を崩壊させてしまうアメリカで最も新しい政府機関にすぎない」と述べている。

 それでも、大統領の1日の発言と行動を象徴的な出来事ととらえた人もいる。

 トランプ政権で最初の国防長官を務めたジェームズ・マティス氏もアトランティック誌への寄稿のなかで、「いかなる状況下であれ、憲法で保障されている市民の権利を侵すために軍隊に出撃命令を下すとは夢にも思わなかった。ましてや、軍の指導者と並ぶ最高司令官に奇妙なシャッターチャンスの機会を与えるとは」と記している。2018年に長官を辞任して以来、マティス氏は大統領への批判を控えていたことからすると、このコメントはきわめて異例だった。

 マティス氏、マーカウスキー氏らによる警鐘が有権者を動揺させたか、または共和党内に大きな変化をもたらしたかは明らかでない。トランプ氏は2016年の大統領選挙前にも、エスタブリッシュメント(保守本流)と呼ばれる面々から今回と同じような攻撃を受けたが、結局は有利な形で選挙人団を獲得して当選を果たした。中核的な支援者からの忠誠を獲得し、3年以上にわたる政権運営の間に共和党への締め付けは厳しくなった。

 抗議活動が続くなか、こうした支援者の間には大統領の下に一致団結する者もいる。彼らはトランプ政権の強権的な対応を称賛し、手に負えなくなったデモを抑圧するためにさらなる強硬な手段を取るよう促している。

 共和党保守派のトム・コットン上院議員(アーカンソー州)は、「どの都市であれ、状況は急速に変化する可能性がある。大統領は、迅速に国民を守るために必要な手段、装備、情報を確保しておかねばならない」と述べている。

 だが、国を揺るがすほどの危機が大統領の足元を襲ったのは明らかだ。新型コロナウイルス流行への対応はちぐはぐだったほか、結果として景気減速を招き、強い経済の後押しを受けて再選を果たす計画は頓挫している。

 強権指導者の戦略を採用することで熱烈な支援者を結びつけ、多くのアメリカ人が感じている不確実性に訴えかけ、11月の選挙で再選を果たすという勝利への狭い道のりを封じ込めることができるかもしれない。しかし、それによって大統領が今後採用する可能性のある対応策を懸念する批判層を生み出すことにもなった。

 レーガン、ブッシュ父子の共和党政権に仕えた経歴を持ち、現大統領を痛烈に批判しているピーター・ウィーナー氏は、「トランプ氏が超えることのない一線、決してすることのない行動を想定するのは難しい」としたうえで、「政権の体制のほか、政権と司法を構成する人たちが大統領をチェックする機能を果たせるかどうかが問題だ」と話している。

By JULIE PACE AP Washington Bureau Chief
Translated by Conyac

Text by AP

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