メキシコで血の選挙戦 候補者ら120人以上が殺害される異常事態

Marco Ugarte / AP Photo

◆犯罪の多様化、広域化、縄張り争いが要因
 なぜ、これほどまでに殺人が増えているのか。メキシコのセキュリティアナリスト、アレハンドロ・ホープ氏は「簡単な数学で説明できる」とAPに解説する。7月1日の選挙に、ターゲットとなりうる1万5000人以上の立候補者がひしめいているからだ。政治家が狙われる背景には、メキシコの犯罪組織の犯罪形態の多様化があるという。麻薬密売の取り締まりの強化を受けて、ドラッグ・カルテルが麻薬犯罪以外にも恐喝、誘拐、石油の横流し、違法伐採などにも手を出すようになってきていると、ホープ氏は指摘する。

 例えば、石油の横流しの場合、非合法なパイプラインを敷いて盗んだ石油を組織の倉庫にいったん貯蔵する手口が用いられるが、地域の自治体や警察が見逃したり隠蔽したりしなければ、このような大胆な犯行は成立しない。今や、犯罪組織と政治家や地方政府の間で賄賂のやり取りや脅迫行為が行われているのは公然の秘密となっている。そして、選挙を控えた今、利害が対立する政治家や、汚職に立ち向かうと公言する候補者が次々と殺害されるという悪循環に陥っている。

 また、犯罪組織同士の縄張り争いも激化している。2012年に就任したペニャニエト大統領は、麻薬カルテルの殲滅を目指し、組織の重要人物たちを次々と逮捕した。しかし、それが結果としてギャングたちの分裂、無秩序化、抗争の激化を促したとエコノミスト誌は指摘する。選挙絡みでは、一方の組織と関係を結んだ候補者がライバル組織の手で殺害されるケースも起きている。

                                                                                                                 

◆相次ぐ出馬辞退
 中央政府の目が行き届かない地方部では特に犯罪組織の権力が増大しているようだ。メキシコの地方情勢に詳しい米アラバマ大学の人類学者、クリス・カイル氏は、「かつては、犯罪組織は政府当局の手から身を守るために、政治家に賄賂を支払う必要があった。だが、今はその関係が反対になっている。政治権力の座につきたければ、犯罪組織に賄賂を贈らなければならない」と、ワシントン・ポスト紙(WP)に語っている。

 5月初めに殺害された西部ゲレロ州議員候補、アベル・モントゥファー氏の射殺体が自身のトラックの中で発見されたケースでは、同氏が地元の麻薬カルテルに「みかじめ料」を支払わなかったことが殺害の動機だったと地元紙が報じている(WP)。

 こうなってくると、立候補すること自体が命がけだ。案の定、出馬辞退が相次いでいる。上記のモントゥファー氏のケースでも代替候補探しは難航していると伝えられる。近隣の自治体の長に立候補していた同氏の元スタッフも選挙戦から身を引いた。米国境のチワワ州では、80人の候補者が出馬を辞退し、代替候補はその半数にしか達していないという。コカ・コーラの工場が操業停止したゲレロ州では、多くの候補者が毎週のように脱落していると伝えられている。

 こんな状態で選挙を行い、人が入れ替わったとしても、治安の回復はとても望めそうもない。

Text by 内村 浩介

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