ロシア大統領選で不正投票、映像など報告多数 票の水増し、立会人に暴力

中央選挙管理委員会が3月18日に捉えた、投票箱に票を詰め込む男性の様子(Navalny Opposition Group via AP)

 ロシア大統領選が行われた3月18日、SNS上は不正投票の瞬間をとらえた映像や写真、目撃談で埋め尽くされた。
 
 選挙管理委員会は、不正行為について調査を行い必要に応じて選挙結果を無効とする旨を発表している。しかし、不正行為がこれだけ報告されたことは衝撃的であり、ウラジミール・プーチン氏の再選の背景に暗影を投じている。
 
 AP通信により正当性が確認された映像には不正行為がはっきりと映り込んでいる。反体制派の指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏陣営を含む複数の投票立会人や独立系選挙監視団体ゴロス、また一般ロシア市民からも以下のような不正投票に関する報告がなされている。

◆票の水増し
 モスクワ郊外リュベルトツィの投票所の様子が記録されたCCTVカメラの映像には、テーブルから投票用紙を取り、周りに誰か見ている者がいないかを確認してから投票箱に用紙を入れる女性の姿が映っている。この女性は、何度も繰り返しこの行為を行った。同選挙所のスタッフと思われる別の女性がこの行為に加わる様子も映像には映し出されている。
 
 チェチェン共和国イスラハン・ユルトの投票所の映像では白い帽子をかぶった男が同じ投票箱に繰り返し何枚も投票用紙を入れる姿が映されている。
 
 極東のプリモルスキー地区では、上着から複数の投票用紙を取り出し、投票箱へと入れる女性の姿が映されている。
 
 不正投票の様子をはっきりと映し出した映像は他にも数十件、オンライン上にアップされている。
  
 地域の選挙委員会によると、リュベルトツィの投票所の結果は無効とされるとのことである。不正投票が報告されたロストフ・ナ・ドヌ南部の街の投票箱は関係機関によって差し止められており、同じく不正が申し立てられている極東のアルチョームについても現在調査中とのことである。

◆投票立会人への暴力
 北カフカース連邦管区ダゲスタン共和国マハチカラの投票所の映像では、現地の役人マゴム・ラスロフ氏が警察によって連れ出される前に、投票立会人マリク・ブタエフ氏に殴り掛かろうとする様子が映されていた。
 
 マハチカラにおける違反行為について情報を収集しているアイーダ・ミルマクスモワ氏によると、黒い服を着た屈強な男が共産党の候補者パーヴェル・グルジーニン氏陣営の投票立会人を地面に引きずり倒したという。「助けてくれ!」と叫ぶ立会人に対し、周りの者たちは「出て行きやがれ!」と怒鳴っていたとのことである。そしてこの乱闘騒ぎの中、投票用紙と見られるものを投票箱に入れる複数の人間の姿も目撃されている。
 
 リベラル系候補者グリゴリー・ヤブリンスキー氏陣営の投票立会人ズクラ・オマロフ氏は、マハチカラにおいて行われた違反行為を撮影しようとしたところ、警察に力ずくで引き止められたと語っている。

「身分証明のためパスポートを提示するよう求められました。何をどういう目的で行おうとしていたのか尋ねられ、鼻をへし折るとも言われました。なぜ撮影していたのかと尋ねられ、我々が撮った違反行為の映像は全て削除されました。そのうちいくつかはすでにオンライン上で公開済みでしたけれど」と、この出来事でできた痣やズボンの破れを見せながらオマロフ氏は語った。

◆投票の強制
 ペルミ、エカテリンブルグ、モスクワの住民の元には雇用主から投票へ向かうよう圧力が掛けられ、いつどこで投票を行ったか報告を求める社内メッセージが送られた。ある労働者は、指示に従わなければボーナスがもらえないのではないかと危惧したと語る。
 
 レニングラード州サンクトペテルブルク郊外のクドロヴォでは、これまで長きにわたり投票率が低かった地域に人々がバスで押し掛け、投票率を引き上げようとしていた様子が投票立会人のセルゲイ・ズース氏によって目撃されている。
 
 氏がAP通信に語ったところによると、投票が始まると同時に、氏のいた投票所には非常に多くの人々が訪れて来たという。氏はバスに乗り込もうとする一団を追いかけ、その様子を撮影しようとしたが、一団は身元を隠そうとカメラを避け、氏の質問に答えることも拒んだという。
 
 中央選挙管理委員会副部長ニコライ・ブラエフ氏は、公共交通機関が行き届いていない遠隔地域の住民への「サポート」として、投票者を投票所までバスで連れて行くという行為自体は擁護している。

◆巧妙な仕掛け
 また、投票率を押し上げる巧妙な仕掛けや公費によるキャンペーンも他に行われていた。これらは非合法的行為とは言えないものであるが、プーチン氏の再選を暗に後押しするものであった。
 
 モスクワの投票所では、保険局によってガン検診と食料品の割引販売が行われ、ステージでのダンスショーやスポーツ大会、大道芸が行われた地域もあった。
 
 また、投票者の中からベストコスチューム賞を選ぶ投票所などもあり、熊のコスプレをした者や民族衣装を着た者、中世の騎士の恰好をした者まで現れた。
 
 レニングラーツキー地区では、弾道ミサイル・サルマトのコスプレをした男性の写真が撮影されている。核兵器の保有を拡大する政府にアピールしようとするものだったのだろう。

By FRANCESCA EBEL, Associated Press
Translated by So Suzuki

Text by AP