米安全保障戦略、文書と演説で中露の位置付けに矛盾 政権内の混乱を反映か

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 アメリカのトランプ大統領は18日に演説を行い、国家安全保障戦略の概要を発表した。アメリカの安全保障のためには経済的影響力の確保が第一だと説き、従来のアメリカ第一主義を踏襲する内容となっている。中国とロシアを「競合」と明確に定義した点が特徴的だ。このスピーチは事前に文書で発表された安全保障戦略の概要を説明するはずのものだが、文書とスピーチでは中露への姿勢が異なるなど、早くも矛盾を指摘する報道が出ている。

◆矛盾:脅威でありパートナー
 ニューヨーク・タイムズ紙は、文書とスピーチの矛盾に焦点を当てた記事を掲載している。トランプ大統領は安全保障政策の文書中で、中国とロシアを北朝鮮やイランなどと同列に論じ、アメリカが直面する「不誠実な世界」の一員と位置付けている。こうした課題を克服すべく、貿易協定の是正と軍事強化を行うべきとの主張だ。しかしスピーチでは具体的な脅威を挙げず、かなりトーンダウンした内容だったという。ワシントン・ポスト紙によると、共通の利益を追求する上での潜在的なパートナーとも位置付けている。

 ニューヨーク・タイムズ紙ではこの矛盾を、政権の安全保障顧問らの困難な状況を象徴するものと捉えている。トランプ氏の予測不能な行動の下で外国と関係構築を進めなければならないため、混乱が生じているのではとの分析だ。

 また、過去の言動との乖離も見られる。ウォール・ストリート・ジャーナル紙(12月18日)は、就任以来トランプ氏が、中露と良好な関係を育んできたと説明する。その上で今回の安全保障戦略では、中露を「前政権時代の関係につけこもうとする危険なライバル」と描写しているようだ。アメリカ第一主義の必要性を強調するためとはいえ、あからさまに変化する姿勢に対し、各メディアの目は厳しい。

◆「経済政策こそ安全保障」
 今回の安全保障政策は、経済政策を安全保障の主体として扱っている点が特徴的だ。ワシントン・ポスト紙は、この点を中心に据えた記事を展開している。トランプ氏は「経済の安全保障は国家の安全保障だ」と述べ、アメリカに有利な貿易協定の必要性を強く訴えているという。TPPと気候変動に関するパリ協定からの撤退も成果としてアピールしているようだ。

 しかし記事では、国務省のある元高官の疑問を取り上げている。経済影響力が政治影響力に寄与するという視点は正しいものの、政策が実効的に機能しているかは別問題のようだ。一例としてTPP脱退は、かえって中国の経済力拡大を見過ごすことにつながった。

 経済影響力の確保の必要性については、ニューヨーク・タイムズ紙(12月18日)も取り上げている。「世界は超大国をめぐる競争について、30年間の休暇を過ごしてきた。そしてこれ(安全保障政策)は、休暇が終わったことを暗示している」とし、中露の影響拡大を憂慮する内容だ。

◆業績アピールに利用?
 さまざまな議論を呼んでいる安全保障政策だが、トランプ氏が業績アピールの場に利用したのではとの見方もできそうだ。ワシントン・ポスト紙によると、安全保障政策は重要な文書ではあるものの、通常、その発表が大きな注目を集めることはないという。発表後にスピーチまで行ったのはおそらくトランプ氏が初めてではないかとのことで、パフォーマンスの意味もありそうだ。株価や減税など、安全保障と関係のないトピックも複数触れられたという。

 ニューヨーク・タイムズ紙では、国務省の元職員のコメントを掲載し、そもそも国家戦略の「賞味期限」はかなり短いと指摘している。今回の演説が単なるPRでなかったにしても、変化する現実を前に、トランプ氏が早々に戦略変更を迫られる可能性があるようだ。

Text by 青葉やまと