北朝鮮を逃れた人々を、そして北朝鮮に住む人々を待ち受ける未来とは

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著: Alexander Dukalskisユニバーシティカレッジダブリン Assistant Professor, School of Politics and International Relations)

 北朝鮮の兵器計画にどう対処すべきかについての意見は尽きることがない。主要報道機関のオプエド(社説への反論)では、対話から、人道問題と経済問題の進展と組み合わせた抑止戦略、果ては政権交代まで、さまざまな主張がなされている。

 しかし、北朝鮮についての発言が加熱する中、軍事的選択、制裁措置、交戦についての抽象的な議論が、その中心にいる人々――何百万人もの普通の北朝鮮の人々の問題を覆い隠している。

 敵国の“ならずもの”行為を悪魔の所業と非難する際、国民を中傷したり十把一絡げにしたりするのは簡単だ。しかし、現実はもっと複雑だ。北朝鮮の人々は、洗脳されたロボットでもなければ、民主化を切望する熱心な民主化運動家でもない。この記事では、そんな北朝鮮の人々のごく一部である、母国を離れた人々を取り上げる。

 この6年間、私は60人の脱北者にインタビューを行い、彼らが経験した北での生活、北からの脱出、そして南での新生活について大いに語ってもらった。にも多くライターたちが書いてきたように、私も彼らのについて以前から書いている 。このような研究を総合的に理解することは、北朝鮮の人々の生活を理解するうえで重要だ。

 他の国の人々と同じように、北朝鮮の人々は自分と家族のための願望を持っている。そして、彼らの信念は複雑で時に相反する。政府を支持する人もいれば、無関心あるいはまったく懐疑的な人もおり、よりよい暮らしを求めて亡命する人までいる。この20年あまりで何万もの人々が北朝鮮から脱出し、現時点で3万人以上の北朝鮮人が韓国で暮らしている。

 北朝鮮からの脱出は簡単なことではない。脱北する人は通常、中国へ密入国するために、ブローカーに大金を払う。密入国した人々は、しばしば危険な状況に置かれる。中国当局に逮捕されれば、本国へ送還されてしまう。どうにか中国に留まる人がいる一方、北朝鮮へ物資を密輸入して売るために国境を行き来する人もいる。この密輸品は、1990年代半ばから北朝鮮で発展している闇市に供給される。

 中国への密入国に成功した他の人たちは、韓国大使館か領事館に出頭できる第三国への到達を目指す。次の目的地はいよいよ韓国だ。北朝鮮当局が脱北者を発見すると、その家族は厳しい取り調べと監視を受けることになるのが常だ。

◆鍵を握るのは普通の人々
 北朝鮮の人々が南へ逃れる理由の多くは、経済的な問題だ。彼らは、自分と家族のためによりよいを確保しようとしており、多くの人がブローカーを介して北の家族へ送金している。秘密の通信チャンネルを経由して韓国での生活について情報を共有できる機会も多い。

 このことから、北朝鮮の人々が外部から完全に遮断されているという考えは時代遅れだとわかる。の多くは、韓国はより豊かで、中国は著しく発展していること、そして、自分たちの国が遅れを取っていることを知っている。

 払拭できない問題は、何といっても金政権のしぶとさだ。韓国にいる北朝鮮の人々が国に残してきた家族に外の世界での生活を話すことができたら、北の独裁政権の正統性が損なわれるのではないか。北朝鮮の人々が日用品を手に入れる手段が約束された国の配給ではなく闇市なら、金政権に反対する声が高まるのではないか。

 北と直接的な関わりを持つ人の中には、その答えがイエスであると確信している人もいるようだ。駐韓米国大使に内定したビクター・チャ氏は、徐々に市場化が進むことで北朝鮮の人々の間に個人主義的な価値観が築かれ、最終的に金政権に終止符を打つと主張している。私自身はこの見解に対して懐疑的だが、チャ氏のような高位の政策立案者が政府の反応だけでなく北朝鮮の人々の日常生活を考慮しているのは喜ばしいことだ。

◆考えを変えれば国が変わるのか
 外国人の多くは、情報の独占を破ることで独裁政権を倒すことができると考えているようだ。北朝鮮の人々が外の世界の情報を知れば、独裁政権に騙されていると気付くだろう、と彼らは主張する。アナリストや脱北者は、とりわけ北朝鮮に住む人々の考えを変えることに関して、韓国のテレビ番組や映画の力を信じている。主にフラッシュドライブで外の世界の情報やエンターテインメントを北朝鮮へ密輸するために、。政権の正当性を弱体化させ、変革への道を開き、金政権に対する北の人々の信頼を崩す狙いだ。

 問題は、北朝鮮がいまだ異常な人権抑圧国家で、集団的な政府への反対意見はほぼ皆無と思われることだ。それに、韓国のテレビドラマを見た北朝鮮の人々が、北朝鮮に留まって政府を変えようとするのではなく、北朝鮮を離れることを選んでしまったらどうなるだろう。所詮、韓国メディアが持つ改革の力に関する証言のほとんどは、現在も北朝鮮で暮らしている人々ではなく、既に北朝鮮を離れた人々へのインタビューと調査で得られたものなのだ。

 確かに。激しく抑圧された状況下では、政府に集団で立ち向かおうなんて想像もできないだろう。それに、もし外の世界がよりよく見えたら、そこへ行こうとするのは至極当然の反応だ。

 外の世界の情報を北朝鮮の人々に伝えるのが無意味というわけではない。むしろその逆だ。北の検閲制度と社会統制は弾圧的で不当なのだから。問題は、テレビ番組を秘密裏に広めることと反政府運動との間に直接の因果関係がまだ見えないことだ。

 しかし、このような議論さえ健全な議論がなされている証拠なのだ。地政的な緊張が極めて高い今こそ、北朝鮮の問題が核兵器、ミサイル、抑止力だけではないということを関係者全員が常に念頭に置かなければならない。これらの問題は非常に重要だが、同時に金政権下にいる何百万もの一般市民に関係しているのだ。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Naoko Nozawa

The Conversation

Text by The Conversation