防衛相、南シナ海警戒監視の可能性を否定せず 日中対立激化を海外紙懸念

 アメリカ海軍第7艦隊のトーマス司令官は先月、ロイターのインタビューで、自衛隊機が南シナ海で警戒監視活動を行うようになることに期待を示した。これについて、中谷元防衛相は3日の記者会見で、現在のところその計画はないとした。ただ、南シナ海情勢が日本の安全保障に与える影響も拡大・深化する中で、日本がどう対応すべきかは、「今後の課題」であるとの認識を示した。

◆南シナ海の権益は「核心的利益」として進出を強める中国
 中国は「海洋権益を断固として守り、海洋強国を建設する」との方針を公言し、南シナ海を「核心的利益」と位置づけている。中国は、「九段線」なる独自の主張を盾に、南シナ海のほぼ全域にわたって管轄権を主張している。米国務省の海洋国際環境科学局は昨年12月、「九段線」は国際海洋法に合致しないとの見解を示した。

 南シナ海の領有権問題をめぐっては、特にフィリピン、ベトナムとの間で緊張が高まっている。昨年、中国は、ベトナムなどが領有権を主張しているパラセル(西沙)諸島付近に、石油掘削設備を投入。ベトナムとの間に深刻な対立を招いた。またフィリピンなど多くの国が領有権を主張するスプラトリー(南沙)諸島では、岩礁を埋め立て、滑走路を建設した。

◆南シナ海に艦船を増加させる中国への対抗策
 中国は領有権の主張を強めるために、より有事即応型の軍隊を育て、遠距離での作戦遂行力を発展させている、という(ブルームバーグ)。トーマス司令官は、中国が南シナ海で漁船、海警船、海軍艦といった艦船を増加させていることへの対抗として、自衛隊機による警戒監視活動に期待を示した、と報じられている。

 安倍首相は、積極的平和主義の名のもと、日本がアジアの安定により大きな役割を果たすことを目指している。同司令官の発言は、アメリカがこれを支持していることの表れだと、ロイターは指摘する。現在進められている「日米防衛協力のための指針」見直しにおいて、日本による南シナ海の監視活動が論点になるだろう、とも推測されている(ブルームバーグ)。

 世界の漁獲量の1割が南シナ海で揚がっているほか、1年に5兆ドル規模の貨物が南シナ海を渡って船で運ばれている。日本への輸出入にとって、南シナ海経由の海運が大きな部分を占めており、日本にとっても重要な海域であることをロイターは説明している。

◆実施するようになれば、中国との緊張が増すことはほぼ確実
 現在、日本は、尖閣諸島のある東シナ海まで、自衛隊機での警戒監視活動を行っている。もしその飛行区域を南シナ海まで拡大すれば、中国と日本の緊張が高まることはほぼ確実だろう、とロイターは懸念する。

 東シナ海では、日中両国の船舶、航空機の不意の遭遇が、軍事衝突の危険を高めている、とブルームバーグは語る。また中国はすでに、南シナ海の大部分をカバーするほど、海軍の巡視範囲を拡大している、と伝える。明示的には述べていないが、もし日本が南シナ海での監視飛行を行うようになれば、中国軍との遭遇の危険が増す、ということだろう。

 中国外交部の華春瑩報道官は、先週の時点で、トーマス司令官の発言を踏まえて、「この地域外の国は、地域の国々が平和と安定を守るよう努めていることを尊重すべきであり、他所の国の間に不和の種をまいて緊張を生み出すことを差し控えるべきである」と記者会見で語った。

◆フィリピンとの防衛協力がより緊密に
 これまで日本は、東南アジア諸国への支援という間接的な形で、南シナ海の安定に働きかけてきた。フィリピンに対しては、2013年、安倍首相が巡視艇10隻の供与を表明している。日本とフィリピンは「戦略的パートナーシップ」関係にあると、2011年、野田首相(当時)とフィリピンのアキノ大統領が共同声明で明記している。

 そのフィリピンのガズミン国防相が、1月29~31日の日程で日本を訪問し、中谷防衛相と会談を行った。両大臣は、南シナ海、東シナ海の情勢について意見交換を行い、人道支援・災害救援分野や海洋安全保障分野で、両国間の防衛協力、交流を強化することで一致した。具体的な道筋についての「覚書」にも共同署名した。今後、定期的な閣僚級会談や、合同訓練、指揮官クラスの意見交換が行われることになる。中谷防衛相は、日比間の防衛協力がさらなる新しい段階に入った、とコメントしている。

Text by NewSphere 編集部